投資詐欺被害に遭ってしまったときの対応方法

荒井総合法律事務所
弁護士 福原 勇太

1.投資詐欺被害の増加
⑴ 昨今、SNSを通じた投資詐欺が増加傾向にあります。金融庁の統計によると、同庁に寄せられた投資詐欺に関する相談は、2年間(令和5年1月~令和6年12月)で合計1万5054件にものぼります
政府広報オンラインhttps://www.gov-online.go.jp/article/201510/entry-8432.html)。
 以下に典型例を挙げます(下線部分は怪しむべきポイントです。)。

 まず、犯行グループは、インスタグラムやフェイスブック等のSNS上で、実在の企業名を騙などして、投資に興味がある人を募り、連絡してきた人をLINEグループに招待します
 そのLINEグループには、数十名が参加していますが、大部分が“サクラ”です。LINEグループ上では、講師を名乗る者が、様々な投資情報を提供し、参加者が「自分はこれだけ利益が出て、これだけ良い暮らしをしている。」というような内容を互いに発信し合っており、これを見た被害者は「確実に儲けられる」と誤信してしまいます。
 その後、「アシスタント」等を名乗る指示役の指示のもと、被害者は専用の取引アプリ(金融庁のロゴなどが不正利用されていることも。)をダウンロードさせられます。指定された預金口座(法人名義のみならず個人名義の口座も)に入金すると、アプリの画面上では、その入金額が反映され、その入金額を元手に、短期間で多くの利益を生み出しているかのように見えます。
 しかしながら、アプリの画面上の表示は全て偽物であり、ある程度の利益が出たと誤信して払戻しを求めても、「追加の入金が必要だ。」、「解約違約金が発生する。」等と、何かと理由を付けて払戻しに応じてもらえず、そのうちに指示役と連絡が取れなくなってしまいます。

⑵ 上記の例のほかにも、「未公開株」、「水資源利用権」、「海外リゾート投資」、「CO2排出権」等、それらの知識を持っていないと理解しづらい専門用語を多用した取引勧誘など、その犯行手口はいずれも非常に巧妙であり、被害者は後を絶ちません(金融庁「『未公開株』等被害にあわないためのガイドブック」ご参照https://www.fsa.go.jp/common/about/pamphlet/mikoukaikabu.pdf))
 ひとたび被害に遭ってしまうと、残念ながら、被害金額を十分に回収できるケースは少なく、法的手続を執っても費用倒れになってしまう可能性が高いというのが実情です。
 そのような実情をご理解いただいた上で、本稿では、投資詐欺被害に遭ってしまった際の対応方法を解説します。

2.振り込め詐欺等救済法に基づく対応
 振り込め詐欺等救済法は、振り込め詐欺のみならず、人の財産を害する犯罪行為(投資詐欺、インターネットオークション詐欺、出会い系サイト詐欺等)であって、預貯金口座への振込みが利用されたもの全般を、「振込利用犯罪行為」(同法第2条第3項、4項)と定義します。
 そして、振込利用犯罪行為の振込先口座(犯罪利用預金口座)を、裁判によらず一定の手続により利用停止・失権させたうえで、その口座の預貯金相当額を、被害回復分配金として被害者に支払う、という被害回復制度を用意しています。
 以下、制度概要をご説明します。

⑴ 金融機関に対する情報提供による口座凍結
 第一に、犯罪に利用された預金口座を凍結させ、被害回復に向けて、当該口座からの資金流出を防ぎます。
 そのために振込先口座(犯罪利用預金口座)の取扱金融機関に連絡をし、情報提供をする必要があります。警察に被害届を出していれば、警察から金融機関に対して情報提供をしてくれるようですが、被害者自身でも情報提供をしておくべきです。
 情報提供を受けた金融機関は、その預金口座を調査し、犯罪利用預金口座であると認定した場合、取引停止等の措置を講じ、もって口座凍結が完了します(法第3条第1項)。
 なお、犯罪利用預金口座の情報提供の具体的な方法(口頭、書面等)や書式等は、法律で特段定められておらず、適宜の方法を用いていただければよいですが、日弁連は書式(「振り込め詐欺等不正請求口座情報提供及び要請書」)を用意しています(日弁連会員用サイトよりダウンロード可能です。)。
 日弁連によると、全国銀行協会は、被害者代理人である弁護士から、被害者が振り込んだ犯罪利用預金口座に関して、上記書式を用いた情報提供を会員銀行において受けた場合には、当該情報提供が実在の弁護士からのものであることを確認でき次第、可及的速やかに当該預金口座等の凍結等の措置を講じるよう、内部規定を整備しているようです。
 そのため、被害者本人であっても情報提供はもちろん可能ですが、代理人弁護士を通じて金融機関に情報提供をすると、よりスムーズな口座凍結が可能だと思います。

⑵ 失権手続
 口座凍結後、金融機関の求めに応じて、預金保険機構が、犯罪利用預金口座の失権公告をします預金保険機構 振り込め詐欺救済法に基づく公告等システムhttps://furikomesagi.dic.go.jp/
 失権公告がなされた場合、一定期間内(60日間以上)に権利行使等(口座名義人による権利行使の届出、払戻しの訴え、強制執行等)がなされなければ、預金者は、預金に対する権利を失い、次のステップ(被害回復のための支払手続)に進みます。しかし、一定期間経過前に権利行使等がなされた場合、失権手続は終了し、支払手続まで進みません。
 失権公告によりその預金口座に一定程度の残高があることが周知されると、他の被害者が回収のための法的手続に及ぶ可能性がありますから、一定程度の残高がある場合には、失権手続及び支払手続を待たず、早期に民事手続(後述)にシフトされた方が良いかもしれません。

⑶ 支払手続
 失権公告の期間が経過し、その口座にかかる預金債権が失権した後は、金融機関の求めに応じて、預金保険機構が、被害回復分配金支払いのための公告をします(犯罪利用預金口座の残高が1000円未満の場合を除きます。)。
 被害者は、金融機関に対して、申請期間(30日間以上)内に、本人確認書類とともに(金融機関によっては、被害金振込時の明細書の写しも併せて)支払申請書を提出することにより、被害回復分配金を受領できます(https://furikomesagi.dic.go.jp/patdoc.html)。
 ただし、支払申請者が複数存在する場合には、各自の被害金額に応じて、預金相当額が按分して支払われることになりますから、一人あたりの手元に来る金額はわずかになる可能性があります。

3.民事手続による対応
 本来であれば、主犯格等の実行犯に対して損害賠償請求をしたいところですが、前述のとおり、昨今の投資詐欺は手口が極めて巧妙であり、調査をしても実行犯にたどり着くこと(実行犯の住所氏名等を特定すること)は不可能に近いです。
 被害回復の糸口となるのは、「アシスタント」等の指示者に指定された振込先口座の情報(振込明細書)です。その口座は、犯罪グループが「闇バイト」等で第三者から売買・貸与等を受けたものであるケースが多いです。
 そして、犯罪収益移転防止法の諸規定に鑑みて、自己名義の預金口座の提供行為は原則許されず、口座提供者は、詐欺の実行行為を幇助したものとして、実行犯との間で共同不法行為責任を負うという裁判例があります(東京地判令和5年2月22日2023WLJPCA02228005)
 そこで、以下、振込先口座の名義人に対する損害賠償請求の手順を解説します。

⑴ 振込先口座名義人の特定(弁護士会照会)
 振込先口座の名義人を被告として提訴しようにも、その氏名(漢字)や住所が分からなければ提訴できません(訴状等の送達ができません。)。
 この点、弁護士は、所属弁護士会を通じて、各振込先口座の取扱金融機関に対して、その口座の名義人の住所、氏名、口座残高等の情報を照会することができます(弁護士法第23条の2に基づく弁護士会照会。弁護士会に納める照会手数料は、照会先金融機関1社あたり約1万円です。)。回答書が届く時期の目安は、概ね照会申出日から3~4週間程度だと思います。
 照会の結果、口座残高が一定程度あることが判明した場合には、次のステップ(債権仮差押命令申立)に進むことになりますが、大抵の場合、犯行グループは入金されると即日、複数の別口座に転々と送金してしまい、照会先の振込先口座の残高は皆無であるケースが多数であるように思われます。
 これを踏まえて、弁護士会照会の際は、前述の照会事項に加えて、別の口座に預金が送金されていた場合の当該送金先(再送金先)の情報も併せて照会することをお勧めします。金融機関によっては、再送金先口座の情報も回答してくれる場合があり、判明した再送金先口座について、追加で弁護士会照会をし、口座名義人や残高を特定していきます。
 しかし、金融機関から再送金先についての回答が得られなかったり、海外の口座に送金されたり、暗号資産化されてしまうと、それ以上の追跡ができず、回収を断念せざるを得ません。

⑵ 民事手続による回収(仮差押、民事訴訟及び差押)
 振込先口座に相当程度残高があり、かつ、口座名義人の住所氏名が判明すれば、民事手続に入ることができます。
ア まずは、裁判所に対して、預金債権の仮差押命令の申立てをし、仮差押命令の取得後、民事訴訟(口座名義人に対する、共同不法行為に基づく損害賠償請求訴訟)を提起します。
 このタイミングで、驚いた口座名義人(被告)が慌てて訴訟代理人をつけるケースがあります。
 想定される被告の反論は、「口座を貸与・売買したのみであり、これが犯罪行為に利用されることなど認識しておらず、故意及び過失はなかった。」というものです。
 このような主張につき、前述の裁判例等では、「預金口座の悪用が大きな社会問題となっている現状において、預金口座のキャッシュカードや暗証番号を第三者に提供する行為は、およそ通常の商取引からかい離した、犯罪につながりかねないものであることは、社会常識として一般に明らか」で、「少なくとも上記提供により当該預金口座が不正に利用されることを認識し得たというべき」であり、それにもかかわらず「これを認識せずに漫然と上記提供をしたのであるから、過失により本件詐欺行為を幇助したものと認められる」と判示しました。
 このように、預金口座の悪用が社会問題化している現状において、預金口座の不正提供は、過失による詐欺行為の幇助にあたり、口座提供者は共同不法行為責任を負うと判断される傾向にあります。
イ 他方で、訴状等を全く受領しようとしない、極めて不誠実な被告も存在します。裁判所は被告に対して訴状を郵送(特別送達)しますが、訴状が「送達」されないと(被告が受領しないと)、訴訟が係属せず、法的手続が進められません。
 そのような場合には、自ら、または調査会社を用いて、住民票上の住所(又は登記上の本店所在地)の居住使用実態を調査し、その報告とともに付郵便送達(書留郵便による送達)又は公示送達の上申をする必要があります。
ウ そして、民事訴訟により債務名義(請求認容判決の確定等)を得た後においても、被告が任意に支払わない場合(または被告の預金口座が仮差押えされているため、支払原資が無く、支払うことができない場合等)には、仮差押済みの口座に対する強制執行のため、裁判所に対して債権差押命令の申立てをする必要があります。
 差押命令正本が被告(債務者)に送達されてから1週間が経過することで、金融機関(第三債務者)から取り立てることができます(民事執行法第155条1項)。当方から金融機関に問い合わせて、取立金の送金先の口座情報を伝えるなどし、被害回復を図ります。
 最後に、裁判所に取立完了届を提出して、完結です。

4.まとめ
 民事手続による対応(前記3)につき、とりわけ弁護士会照会は弁護士に依頼することが必須になりますが、弁護士費用や照会手数料が発生しますから、冒頭記載のとおり、費用倒れになるリスクがあります。そのため、費用についてご相談される弁護士によくご確認ください。
 最もリーズナブルな方法を考えると、被害者自らが金融機関に情報提供をし、預金保険機構の公告が出るまで待ち、公告された犯罪利用預金口座の残高を確認した後に、法的手続まで進むかを選択するという方法になるでしょうか。
 しかし、他にも被害者がいる場合で、その被害者が代理人弁護士をつけたような場合には遅れをとってしまう可能性もありますから、弁護士への相談も視野に入れつつ、進行について慎重かつスピーディーなご判断が求められます。


<参考文献>
久米川良子・中井洋恵・田村康正(2014)「消費者被害の上手な対処法〔全訂2版〕」民事法研究会 111~116頁

2026年05月01日