上信越国立公園 湯の平温泉 松泉閣
荒井節子
今回のお客様紹介は、泉商事株式会社観光部が経営する湯の平温泉”松泉閣” です。
上信越国立公園・白砂渓谷にある湯の平温泉の秋の景観の素晴らしさと、湯の平から草津まで車でわずか15分という地理からもお解りいただける温泉の質の良さを知っていただきたく、再びの登場となりました。
(平成14年・6月登場)
【初めに】
湯の平温泉 ”松泉閣” と泉商事の関わりは、大正時代に日本鋼管の仕事を請け負っていた先々代社長が、彼の地で働く社員の宿舎として温泉を買い取られたことに始まります。
太平洋戦争中は、疎開者の住居として提供されたりしたそうですが戦後は宿舎を旅館にと改装。豊富な湯量を基に白砂川の河原に作った野趣満点の露天風呂は、当時まだ珍しかったこともあって、TVで取り上げられたり、雑誌に出たりと、度々マスコミにも紹介されたそうです。泉質の良さは、温泉好きの方々にいつの時代も変わらない支持を受け続け、バブル時代にも昨今の秘湯ブームにも踊ることなく、奢ることなく、変わらぬ姿のままで今日を迎えております。
【アクセス】
JR上越線・吾妻線、長野原草津口下車→花敷温泉行バス22分、湯の平温泉下車。車なら関越自動車道、渋川・伊香保IC→国道145・長野原→国道292・湯の平温泉口。長野原草津駅近くには紅葉で有名な吾妻渓谷があり、大勢の観光客で賑わいます。ここから、川原湯まで1.8kmに及ぶ遊歩道が整備され、数年後にはダムに沈む運命の川原湯に入ろうとリュックを背負って歩くハイカーの姿が多く見られます。
【宿へのアプローチ】
広葉樹に囲まれた敷地に入ると、そこは静寂に包まれた別世界。荷物は備え付けのロープウェイで対岸の宿まで運んでもらい、人間は手ぶらで谷を下り吊り橋を渡り、また山道を上って玄関にたどり着きます。
車が横付けになるような便利さはありませんが、舞い落ちた楓を踏みしだき、ドングリを拾い、白砂川の美しさに声を上げながら一歩、一歩進むうちに、仕事の疲れや、東京に置いてきた懸念事項のことを忘れて心が軽くなっていくのが解ります。
吊り橋の下を流れる白砂川は、乳白色がかった柔らかなエメラルド色です。上流にある草津の酸性のお湯が白砂川に放流されるとかで、成分の関係でこんな風に見えるそうです。や黄に紅葉した木々の枝が川面に迫り出し、緑色の水面や白の波頭に映えて、その対比がとても綺麗です。
【宿】
「日本秘湯の会」の掲灯が飾られた宿は部屋数15室の簡素な造りです。
迎えに出てくださる宿の方々も飾らない笑顔の方ばかり。玄関には「カタクリ」「水芭蕉」「百合」と この宿の周囲に咲く花の写真が飾ってあります。 「鯉」や「カモシカの親子」などの動物の写真に交じって作家の森瑶子さんやデヴィ夫人など、ここを訪れた文化人や芸能人の写真もあります。お客様は定年間近の温泉マニアばかりと思いきや、若い女性も多く、宿の方が六合村(湯の平温泉があるところ)周辺の観光名所を説明してあげている姿もほほえましい感じです。
【温泉】
もちろん、温泉掛け流しです。71度の無色透明な石膏性苦味泉。高血圧、リュウマチ、神経痛、糖尿等に効用あり。交通事故に遭った方が毎日ここで傷口を温泉に浸していたら、きれいに傷口が治ったそうで、外傷にも効きます。
内湯は、男、女別の浴湯の他に家族風呂があり24時間入れます。是非お勧めしたいのが、谷底の白砂川に面して作られた露天風呂です。長い階段を下るのは少し大変ですが、目線の高さに河の流れを見ながら、天蓋のない岩風呂に入浴できる気持良さは格別なもの。
形ばかりの脱衣場に衣服を投げ入れ、柔らかでまとわりつくような泉質のお湯に浸かりながら、四方の紅葉を眺めたり、川のせせらぎを聞いていると「日本に生まれて良かった」という気持ちが汗と共にじっくりと湧いてきます。「ワァー綺麗だ。」と大声を上げながら入ってきた女性がいましたが、思わず「そうですね。」と声をかけていました。
【食事】
地の物にこだわった食事は華美ではありませんが、四季の野菜が取り入れられて美味しく胃に優しい感じです。玄関に飾ってあった美しい写真の数々が、ここの板長さんが撮られたものと聞いて納得しました。少々のお酒で満腹になり、ぐっすり休めそうです。
【お土産及び、周辺の観光名所】
湯の平温泉のある六合(くに)村は六合ハム、花豆などで有名です。他にこんこん草履という布を裂いて作った草履や(わら草履のようなもの)木工品の数々で知られています。春には桜、ツツジ。夏には野反湖(のぞりこ)のノゾリキスゲ、芳ヶ平のワタスゲなど、今では貴重といわれる湿原も近くにあり、四季おりおりに楽しめます。
【終わりに】
湯の平温泉 ”松泉閣”は、あのバブルの時代にも過剰な設備投資をせず変わらない経営を続けて来られました。余計な宣伝もしませんから、春、夏、秋まではいいけれど、冬はお客様もぱったりと途絶えたそうで、それなりに大変な時代もあったのかもしれません。しかし、泉商事のオーナーから出るのは「みんながとても良くやってくれたから」というねぎらいの言葉ばかりです。
それではと、実際に従業員の方々の顔が見たくて伺った今回の旅行でしたが従業員の方々が湯の平を大変愛してらっしゃる様子がしっかり伝わってきて話が弾みました。
六合村の写真集をめくりながら、四季の美しさをいっぱい解説してくださった金子さん。旅館の周囲の写真をプレゼントしてくださった、板長の林さん。「また、いらしてください。」と何度もおしゃって見送ってくださいました。 帰りは、暮坂峠をドライブした後に、軽井沢を通って帰りました。お土産にじゃがいもや花豆やハムも買い込み、深まりゆく秋を堪能した良い旅でした。
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