新型コロナに伴う事業者向け支援策

弁護士 山口 正貴  
 
1.はじめに

 国民の外出自粛の効果からか、最近、新型コロナの新規感染者数はかなり少なくなってきました。緊急事態宣言が明けてもまだまだ完全な日常に戻るには時間がかかりそうですがこれからは、止まってしまった経済を再び動かす必要がでてきます。
 しかし、このおおがかりな自粛の影響で事業活動が難しくなってしまった事業者も大勢いらっしゃると思います。そのようなときに是非利用していただきたいのが、国や自治体の用意した新型コロナに関する種々の支援制度です。
 今回は、事業者の皆様が今後事業活動を行っていく上で、どのような支援制度が利用できるのかを検討いただくために、代表的な支援制度を俯瞰し、交通整理をして、そもそもどのような制度を利用していくことができるのかについて、説明していきます。
 なお、新型コロナに関する支援制度は日々更新されています。本稿は、作成時点である令和2年5月25日までの情報をもとに作成しますが、今後皆様が実際に利用される場合には内容が変更されている可能性がありますので、ご了承いただくとともに、利用時には、常にHP等で最新の情報にあたっていただくようお願い致します。
 

2.支援制度概観

 今回の支援制度のうち、金銭面に関するものをいくつかのグループ分けする場合には、主に、給付、借入・融資、支払い猶予の3つ分けることができます。そのほかにも経営相談窓口の開設や、専門家派遣などの金銭面以外の支援策もあります。また、国による制度とは別に、例えば東京都の場合、一定の業種に関し、東京都が施設の利用停止を要請し、それに応じた場合に一定額の給付が受けられる感染拡大防止協力金の制度があります。
 それらすべてをここで説明することは難しいため、今回は、国による金銭面の支援制度を中心に説明することとします。
 

3.給付制度

(1)  雇用調整助成金
 雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。要するに、事業主の業績が低下したことで、労働量を調整せざるを得なくなった場合、事業主が支払うべき休業手当金相当額の大部分を国が事後的に肩代わりしてあげることで、雇用の維持を図る制度です。
 雇用調整助成金はコロナが流行する前から存在していた制度ですが、新型コロナウイルス感染症にかかる特例措置として、令和2年4月1日~6月30日までを緊急対応期間と位置づけ、この期間内における休業について、助成金の支給要件の緩和、支給額の増加、申請手続の緩和がなされています。
 具体的には、主に①新型コロナの影響により事業活動が縮小(最近1ヶ月の売上高等の生産指標が前年同月比で5%以上減少)したこと、②労使間の協定により雇用調整(休業)を実施した場合に申請をすることができます。
 助成率も、中小企業で、かつ解雇を行わない場合には原則として9/10と、支払った休業手当をほぼカバーしてくれることになりますので、事業所を臨時休業とした方や、グループ出勤・時短出勤を導入された方は是非お近くの都道府県労津局かハローワークにお問い合わせください。
 なお、助成額の上限は現段階で1人1日あたり8330円となっていますが、5月14日に安倍首相が会見で支給上限額の15000円への引き上げや、労働者が直接国へ受給申請できる制度の創設について言及していますので、今後、この制度は大きく変更される可能性があります。

(2)  持続化給付金
  持続化給付金とは、感染症拡大により、特に大きな影響を受ける事業者に対して、事業の継続を下支えし、再起の糧とするための、事業全般に広く使える給付金です。
 2020年1月以降、新型コロナの影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月がある中小法人は、前年の総売上(事業収入)から、(前年同月比▲50%月の売上×12ヶ月)を引いた額(上限は法人で200万円、個人事業主で100万円)について給付を受けられるものです。
 申請期間は令和3年1月15日までとなっていますが、現在多くの事業者から申請が殺到しており、認定・支給が遅れているとのことですので、該当される方はお早めに申請をお勧め致します。なお、申請方法は持続化給付金の申請用HPからの電子申請が原則となっています。

(3)  小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援
 新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子の保護者である労働者の休業に伴う所得の減少に対応するため、正規雇用・非正規雇用を問わず、有給の休暇(年次有給休暇を除く。)を取得させた企業に対する助成金です。
 小学校が新型コロナ対策で臨時休業したり、子が新型コロナに罹患したりして、監護者が休暇を取得しなければならないときに、事業者が法定の年次有給休暇とは別に、給料が出る有給を取得させた場合、その保護者に支払った賃金額の100%(上限は1人1日8330円)を国が助成することで、子の保護者に休暇を取得させやすくすることを目的とする制度です。
 申請先は、厚労省から委託を受けた学校等休業助成金・支援金受付センターとなっています。

(4)  その他の給付制度
 そのほかにも、①例えば部品内製化のための設備投資や、国内への自社工場の移転など、新製品・サービス開発や生産プロセス改善等のための設備投資等を支援する「ものづくり・商業・サービス補助」、②例えば飲食点が出前注文を受け付けるwebサイトを作成したり、旅館が自動受付機を導入したりするなど、新型コロナの影響を乗り越えるための販路開拓を支援する「持続化補助(コロナ特別対応型)」、③テレワーク補助など、ITツール導入による業務効率化等を支援する「IT導入補助」など、様々な助成金制度が存在します。
 

4.借入れ制度

(1)  総論
 借入れに関する支援策は、それぞれが似通っていたり、制度が連動したりしていて特に理解が難しいものとなっていますが、制度を大きく分けると、借入れにおける融資条件や金利の緩和、保証の支援、利子補給の3つとすることができます。
 そして、売上げ減などの一定の条件を満たした場合には、これらが連動して、無利子や保証料なく、金融機関から融資を受けられたり、また既往債務の借り換えができたりすることになります。
 なお、あくまで融資ですので、当然、金融機関や保証機関の審査があり、融資限度額や申請額の分の融資を必ず受けられるわけではありません。企業規模や信用力にもよりますが、新規だと、月の売上や運転資金の3ヶ月前後が融資されることが多いようです。また、あくまでも借入れであり、いずれ返済しなければならないものであることに留意ください。

(2)  政府系金融機関による融資の支援

 政府系の融資には、金利によって、3つの借り方が用意されています。
 ひとつめはセーフティネット貸付です。この制度は、特に金利の引き下げがあるわけではありません。しかし、融資要件が緩和され、これまでは売上高減少等の要件があったものの、今回のコロナを受け、現状の業績悪化がなくとも、今後コロナによる影響が見込まれる事業者についても融資が受けられるようになっています。
 2つめは、新型コロナウイルス感染症特別貸付等の3つの貸付制度です。いずれの制度も、最近1ヶ月の売上高が前年または前々年の同期と比較して5%以上減少している場合には、通常よりもかなり低い金利で融資を受けることができます。現時点では、金利が0.21%となっています。また、無担保での融資を受けられる点も特徴です。
 3つめは、2つめの借入れ制度を利用した際に、特別利子補給制度という制度を併用する借り方です。特別利子補給制度とは、最近1ヶ月の売上が15%または20%減少している場合に、借入れの際に発生する利子部分の給付が受けられるという制度です。つまり、売上額が一定割合減少した事業者は、実質的に無利子無担保で融資を受けることができます。
 また、この制度が利用できる場合には、公庫から借入れた既往債務についても、実質無利子の借入れに借り換えできることとなっています。
 細かい借入れ条件等につきましては、経産省や、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫のホームページ等を御確認ください。
 
(3)  民間金融機関による融資

 民間金融機関からの借入れの際、信用保証協会の保証枠を利用することができますが、売上高が前年同月比で5%または20%減少しているときには、それぞれセーフティネット保証5号と4号という制度を利用することによって、一般保証枠とは別枠でさらに2.8億円までの保証(5号の場合は80%分)を受けることができます。
 また、売上高が15%以上減少している場合には、これらのセーフティネット保証とはさらに別枠で、危機関連保証として、さらに2.8億円までの部分について100%の保証を受けられることができます。
 そして、これらのセーフティネット保証や危機関連保証を利用した場合には、保証料や金利の減額や免除を受けることができます。要するに、売上高が一定割合以上減少している事業者は、セーフティネット保証や危機関連保証を利用することで、場合によっては無利子・保証料なしで融資を受けられるという制度です。
 さらに、これまで信用保証付きで借りていた既往債務についても、今回の要件を満たせば実質無利子融資への借換えが可能になります。

(4)  その他
 これらのほかにも、中小企業基盤整備機構の小規模企業共済制度に加入している場合には、一定の売上減少があれば、特例緊急経営安定貸付を利用できる場合があります。
 上記の貸付制度に加え、今回新型コロナ特例リスケジュールという制度も新たに創設されています。これは新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小企業者のために、専門家が、金融機関と交渉し、既存債務の元金返済猶予を求めてくれたり、資金繰り計画の策定をサポートしてくれたりする制度です。基本的に無料で利用できることとなっています。
 

5.各種支払い猶予

 新型コロナで、事業を回せない場合に大きな負担になってくるのが税金や固定費ですが、税金の場合には、事業収入が20%以上減少した場合には、支払いの猶予・免除・軽減などの措置が用意されています。
 また、社会保険料や各種ライフラインの支払いについても、支払いによって、事業継続が難しくなるような場合には、支払いに関する相談ができるようです。

6.さいごに

 今回の記事では、「売上が前年同月比で○%減少したこと」を要件とする支援策が多くでてきましたので、今回ご紹介したものを表に簡単にまとめてみましたので、復習がてらご参照ください。
 

  新型コロナの感染の状況は日々変化しており、それに応じて、支援内容や要件・手続も日々更新されています。したがって、これらの制度を利用するにあたっては、必ず、申請時における最新情報を毎回チェックするようにしてください。
 今回は、国による支援策を中心に説明しました。国による支援策については、経産省の「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」という説明資料がよくまとまっていると思います。そのほかにも、区や都道府県などの各自治体も様々な支援策を用意していますが、これにつきましては、中小企業基盤整備機構が運営する情報発信サイト「J-Net21」にて、各自治体の支援策がまとめられており、地域や支援分野ごとに検索ができますのでこちらもご参照ください。

 


一覧に戻る ページTOP