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派遣先が確認すべき事項
まず,派遣元の選定にあたり,派遣元が派遣法に基づく適切な事業運営を行っているのかを確認することが大切です。特に確認すべき事項は,派遣元が,派遣禁止業務(4条1項)を行っていないこと,派遣事業の許可を得ていること(5条1項),派遣可能期間(35条の2,3)を理解していること(派遣可能期間制限に違反していないこと)などです。これらに違反する派遣元から派遣を受け入れた場合,是正勧告や企業名が公表されてしまう危険がありますし,派遣労働者に対する労働契約の申込み行為とみなされてしまいます(49条,49条の2)。
また,派遣先から離職してから1年以内の者については,60歳以上の者を除いて,派遣労働者として受け入れることはできません(35条の5)。
上記の「派遣事業の許可を得ていること」との関係で補足しますと,労働者派遣事業の許可は,有効期間が3年とされており(10条1項),更新手続を経ることにより,更に5年間,派遣事業を行うことができます(同条4項)。派遣元の中には,更新手続を怠り,許可の有効期限が徒過したにもかかわらず,派遣事業を続けている事業者も存在する可能性がありますので,許可番号等の確認を欠かさないようにしてください。
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抵触日の通知
事業所ごとに派遣労働者を受け入れることができる期間(事業所単位の派遣可能期間)は,3年間と定められているところ(40条の2,3),派遣先は,派遣契約締結に先だって,派遣元に対して,上記派遣可能期間に抵触することになる最初の日を通知しなければなりません(26条4項)。なお,派遣先に無期雇用されている派遣労働者や60歳以上の派遣労働者などについては,派遣可能期間の制限はありません。
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事業所単位の派遣可能期間の延長
上記の事業所単位の派遣可能期間は,過半数労働組合などの意見を聴くことにより,その期間を3年ごとに延長することができ,これにより,同じ派遣元から引き続き派遣労働者を受け入れることができます。派遣可能期間を延長しようとする場合,延長前の期間が終了する1ヶ月前までに,その事業所の過半数労働組合(ない場合には過半数代表者)から意見を聴取します。意見聴取にあたっては,過半数労働組合等に対して,①派遣可能期間を延長しようとする事業所と②延長しようとする期間を書面で通知してください。
意見聴取をせずに派遣可能期間経過後も派遣を受け入れたり,意見聴取の方式が法律どおりになされなかった場合,派遣労働者に対する労働契約の申込みとみなされてしまいますので,ご注意ください。
なお,仮に事業所単位の派遣可能期間を延長した場合でも,一つの組織単位(「〇〇課」や「〇〇グループ」等)の業務について,同じ派遣労働者から3年以上継続して労務提供を受けることは禁止されています(個人単位の派遣期間制限)。
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情報提供義務
改正派遣法に新設された,情報提供義務についてご説明します。派遣先は,契約締結前に,あらかじめ派遣元に対して,厚生労働省令で定められた情報を提供しなければなりません(26条7項)。この情報提供のないままに契約を締結することは禁止されています(同条9項)。
このような情報提供義務が定められた理由は,派遣元において派遣労働者の待遇を決定するにあたり,①「派遣先均等・均衡待遇方式」または②「労使協定方式」のいずれかを採用しなければならないと定められたことにあります。以下,両方式について簡単にご説明します。
改正派遣法では,派遣労働者の待遇改善の実効性を確保するため,派遣元において派遣労働者の待遇を決めるにあたり,派遣先から提供される「比較対象労働者」(28条8項)の待遇に関する情報に基づき,派遣先の通常の労働者との待遇の均等・均衡を図ることが義務づけられました(改正前は努力義務でした。)。このような待遇決定方式を①「派遣先均等・均衡待遇方式」と呼びます。この方式による場合には,比較対象労働者の賃金等の待遇に関する情報を提供します。
他方,派遣先との均等・均衡待遇を徹底しすぎると,派遣労働者は,派遣先が変わるごとに自身の賃金の水準が変わってしまい,所得が不安定になってしまいますし,派遣元において労務管理を行う際にも,派遣労働者ごとに賃金が異なるというのは困りものです。そこで,もう一つの選択肢として新たに定められたのが,②「労使協定方式」です。
労使協定方式とは,派遣元において,労働者の過半数で組織する労働組合(なければ過半数代表者)との間で所定の事項を定めた労使協定を締結・周知し,この協定に基づいて派遣労働者の待遇を決定する方式です。労使協定方式を採用する場合には,派遣元が派遣労働者に対して支払う賃金額は,「一般賃金」と同等以上にしなければなりません。「一般賃金」とは,派遣先の就業場所と同じ地域で,派遣労働者と同じような仕事をし,かつ派遣労働者と同じ程度の能力・経験を有する無期雇用フルタイム労働者の平均賃金のことです。
以上のように,いずれの方式によっても,派遣労働者の賃金は一般の労働者と同じ水準のものが要求されることとなり,派遣労働者の賃金をベースに定められる派遣料金も,平均的に値上がりすることが予想されます。
派遣元が採用している待遇決定方式は,派遣元のホームページなどで確認することができるようになりますが,おそらく日本のほとんどの派遣元は,労使協定方式を採用するものと予想されます。派遣先の通常の労働者の待遇等を逐一精査して,派遣労働者の待遇を決定することは煩わしいですし,派遣労働者ごとに賃金等の待遇が異なってしまうと労務管理も煩わしいのではないでしょうか。
なお,労使協定方式が採用される場合,派遣先は,派遣元に対して,派遣先での業務遂行に必要な教育訓練に関する情報と,派遣先の労働者に対して利用の機会を付与している福利厚生施設に関する情報の2つを提供する必要があります。
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特定行為の禁止
派遣先は,派遣労働者の特定を目的とする行為をしてはなりません(26条6項)。例えば,派遣労働者を指名することや,履歴書送付を求めたり,事前面談をすることは禁止されています。派遣先に必要な技術水準を有しているかを確認するためにスキルシートなどを提出させることは許されますが,その場合でも,取得資格や経験年数など,必要最低限の情報のみを提供させるようにしてください。 |