派遣労働者を受け入れるにあたって留意すべき事項

―令和2年4月施行法対応―
弁護士 福原 勇太  
 
1.はじめに

 これまでは,「派遣労働者」というと,無期雇用労働者と比べて「安い労働力」とイメージされがちでした。しかし,改正労働者派遣法が施行される令和2年4月1日以降は,派遣労働者の賃金体系を,同種の業務を行う無期雇用労働者と同等以上にすることが義務付けられるなど(改正派遣法(以下省略)第30条の3),これまでの認識・イメージを改めなければなりません。
 本稿では,改正部分にも触れつつ,派遣契約の締結,派遣就業の開始,派遣契約の終了の各場面において,労働者派遣を受ける側(派遣先)が留意すべき派遣法上の留意点をご説明します。 

2.派遣契約の締結にあたっての留意点

(1)  派遣先が確認すべき事項
 まず,派遣元の選定にあたり,派遣元が派遣法に基づく適切な事業運営を行っているのかを確認することが大切です。特に確認すべき事項は,派遣元が,派遣禁止業務(4条1項)を行っていないこと,派遣事業の許可を得ていること(5条1項),派遣可能期間(35条の2,3)を理解していること(派遣可能期間制限に違反していないこと)などです。これらに違反する派遣元から派遣を受け入れた場合,是正勧告や企業名が公表されてしまう危険がありますし,派遣労働者に対する労働契約の申込み行為とみなされてしまいます(49条,49条の2)。
 また,派遣先から離職してから1年以内の者については,60歳以上の者を除いて,派遣労働者として受け入れることはできません(35条の5)。
 上記の「派遣事業の許可を得ていること」との関係で補足しますと,労働者派遣事業の許可は,有効期間が3年とされており(10条1項),更新手続を経ることにより,更に5年間,派遣事業を行うことができます(同条4項)。派遣元の中には,更新手続を怠り,許可の有効期限が徒過したにもかかわらず,派遣事業を続けている事業者も存在する可能性がありますので,許可番号等の確認を欠かさないようにしてください。

(2)  抵触日の通知
 事業所ごとに派遣労働者を受け入れることができる期間(事業所単位の派遣可能期間)は,3年間と定められているところ(40条の2,3),派遣先は,派遣契約締結に先だって,派遣元に対して,上記派遣可能期間に抵触することになる最初の日を通知しなければなりません(26条4項)。なお,派遣先に無期雇用されている派遣労働者や60歳以上の派遣労働者などについては,派遣可能期間の制限はありません。

(3)  事業所単位の派遣可能期間の延長
 上記の事業所単位の派遣可能期間は,過半数労働組合などの意見を聴くことにより,その期間を3年ごとに延長することができ,これにより,同じ派遣元から引き続き派遣労働者を受け入れることができます。派遣可能期間を延長しようとする場合,延長前の期間が終了する1ヶ月前までに,その事業所の過半数労働組合(ない場合には過半数代表者)から意見を聴取します。意見聴取にあたっては,過半数労働組合等に対して,①派遣可能期間を延長しようとする事業所と②延長しようとする期間を書面で通知してください。
 意見聴取をせずに派遣可能期間経過後も派遣を受け入れたり,意見聴取の方式が法律どおりになされなかった場合,派遣労働者に対する労働契約の申込みとみなされてしまいますので,ご注意ください。
 なお,仮に事業所単位の派遣可能期間を延長した場合でも,一つの組織単位(「〇〇課」や「〇〇グループ」等)の業務について,同じ派遣労働者から3年以上継続して労務提供を受けることは禁止されています(個人単位の派遣期間制限)。

(4)  情報提供義務
  改正派遣法に新設された,情報提供義務についてご説明します。派遣先は,契約締結前に,あらかじめ派遣元に対して,厚生労働省令で定められた情報を提供しなければなりません(26条7項)。この情報提供のないままに契約を締結することは禁止されています(同条9項)。
 このような情報提供義務が定められた理由は,派遣元において派遣労働者の待遇を決定するにあたり,①「派遣先均等・均衡待遇方式」または②「労使協定方式」のいずれかを採用しなければならないと定められたことにあります。以下,両方式について簡単にご説明します。
 改正派遣法では,派遣労働者の待遇改善の実効性を確保するため,派遣元において派遣労働者の待遇を決めるにあたり,派遣先から提供される「比較対象労働者」(28条8項)の待遇に関する情報に基づき,派遣先の通常の労働者との待遇の均等・均衡を図ることが義務づけられました(改正前は努力義務でした。)。このような待遇決定方式を①「派遣先均等・均衡待遇方式」と呼びます。この方式による場合には,比較対象労働者の賃金等の待遇に関する情報を提供します。
 他方,派遣先との均等・均衡待遇を徹底しすぎると,派遣労働者は,派遣先が変わるごとに自身の賃金の水準が変わってしまい,所得が不安定になってしまいますし,派遣元において労務管理を行う際にも,派遣労働者ごとに賃金が異なるというのは困りものです。そこで,もう一つの選択肢として新たに定められたのが,②「労使協定方式」です。
 労使協定方式とは,派遣元において,労働者の過半数で組織する労働組合(なければ過半数代表者)との間で所定の事項を定めた労使協定を締結・周知し,この協定に基づいて派遣労働者の待遇を決定する方式です。労使協定方式を採用する場合には,派遣元が派遣労働者に対して支払う賃金額は,「一般賃金」と同等以上にしなければなりません。「一般賃金」とは,派遣先の就業場所と同じ地域で,派遣労働者と同じような仕事をし,かつ派遣労働者と同じ程度の能力・経験を有する無期雇用フルタイム労働者の平均賃金のことです。
 以上のように,いずれの方式によっても,派遣労働者の賃金は一般の労働者と同じ水準のものが要求されることとなり,派遣労働者の賃金をベースに定められる派遣料金も,平均的に値上がりすることが予想されます。
 派遣元が採用している待遇決定方式は,派遣元のホームページなどで確認することができるようになりますが,おそらく日本のほとんどの派遣元は,労使協定方式を採用するものと予想されます。派遣先の通常の労働者の待遇等を逐一精査して,派遣労働者の待遇を決定することは煩わしいですし,派遣労働者ごとに賃金等の待遇が異なってしまうと労務管理も煩わしいのではないでしょうか。
 なお,労使協定方式が採用される場合,派遣先は,派遣元に対して,派遣先での業務遂行に必要な教育訓練に関する情報と,派遣先の労働者に対して利用の機会を付与している福利厚生施設に関する情報の2つを提供する必要があります。

(5)  特定行為の禁止
 派遣先は,派遣労働者の特定を目的とする行為をしてはなりません(26条6項)。例えば,派遣労働者を指名することや,履歴書送付を求めたり,事前面談をすることは禁止されています。派遣先に必要な技術水準を有しているかを確認するためにスキルシートなどを提出させることは許されますが,その場合でも,取得資格や経験年数など,必要最低限の情報のみを提供させるようにしてください。

3.派遣就業の開始にあたっての留意点

(1)  派遣元からの情報提供
 派遣元は,派遣を行う際,派遣先に対して,派遣しようとする労働者に関する情報として派遣法第35条1項に定められる事項を通知する義務を負います。とりわけ,派遣労働者が有期雇用か無期雇用かという点,60歳以上であるか否かという点は,派遣期間制限が適用されるか否かにかかわるため,重要な情報といえます。

(2)  派遣先が確認すべき事項
 自社で直接雇用していた者で,かつ,離職して1年以内の者については,受入れが禁止されていますので,受け入れようとしている労働者が1年以内に雇用していた人ではないことを確認してください。ただし,60歳以上の労働者は,離職から1年以内でも受け入れが可能です。
 その他,派遣元の保険加入の有無,派遣先の苦情処理体制の整備,派遣先責任者の選任,派遣先管理台帳の作成などがなされているのかも確認してください。

(3)  派遣先責任者について
 派遣先責任者は,派遣労働者を受け入れている事業所ごとに選任する必要があります。選任された派遣先責任者は,他の事業所の派遣先責任者を兼ねることはできません(規則34条)。原則として,受け入れている派遣労働者の人数につき,1人から100人を一単位として,一単位ごとに1人の派遣先責任者を置かなければなりません。

(4)  派遣先管理台帳について
 派遣先管理台帳も事業所ごとに作成する必要があります。派遣労働者の労働日,労働時間,就業内容等を記載することで,就業実態を把握することができ,また,記載内容を派遣元に通知することで派遣元の雇用管理を適正なものとすることが期待できます。派遣先労働者を受け入れている派遣労働者の合計が5人以下の場合には作成義務はありません(規則35条3項)。記載内容については,派遣法第42条に定められています。作成した台帳は3年間保存し,1ヶ月に一度,または派遣元から求められた際,記載内容を書面,FAX,メール等で派遣元に通知しなければなりません。

(5)  教育訓練・福利厚生
 派遣法の改正により,派遣先は,派遣元からの求めに応じて,派遣労働者に対して,必要な能力を習得するための教育訓練を実施することが義務づけられました(改正前は配慮義務でした。)。
 また,食堂,休憩室,更衣室についても利用の機会を与えることが義務づけられました。これら福利厚生施設以外のもの,例えば診療所,シャワールーム,運動場などについては,利用の機会を与えるように配慮することとされています。
 また,派遣元においても,派遣労働者に対して教育訓練を実施する義務や,派遣契約時に定めた待遇のとおりに派遣労働者を扱う義務があり,これらの義務が適切に講じられるように,派遣先は,派遣先の労働者に関する情報や派遣労働者の業務遂行状況等に関する情報を提供するように配慮する義務があります。

4.派遣就業期間中及び終了にあたっての留意事項

(1)  雇用安定措置
  派遣先及び派遣元は,派遣労働者の雇用安定措置を講じなければなりません。このうち,派遣先が講じなければならない雇用安定措置をご紹介します。
 派遣法が求めているのは,同一の組織単位(「〇〇課」や「〇〇グループ」など)で,①1年以上継続して就業した派遣労働者と②就業期間が1年未満であっても,3年以上継続して就業する見込みがある派遣労働者のうち,派遣期間終了後も継続就業を希望する者(規則25条1項)として,派遣元から雇用の依頼があった労働者についての雇用安定措置です(以下の説明では,継続就業を希望している者として派遣元から雇用依頼があった派遣労働者であることを前提とします。)。
 雇用の依頼を受けた派遣先は,①1年以上継続して就業する派遣労働者につき,遅滞なく雇い入れるように努力しなければなりません。
 また,派遣先において,通常の労働者を募集する場合には,①1年以上継続して就業する派遣労働者に対して募集情報を周知する義務があります。他方で,②就業期間が1年未満で,かつ3年以上継続して就業する見込みである派遣労働者につきましては,通常の労働者を募集するときのみならず,有期雇用労働者やパートタイム労働者を募集する場合にも,その募集情報を提供しなければならない反面,派遣期間制限の適用のない派遣労働者については周知義務を負わないと定められています。

(2)  中途解約にあたって
  派遣元は派遣先が派遣法に違反する行為をした場合,派遣契約を解除することができます。また,派遣先都合による中途解約につき,派遣先はあらかじめ,相当期間を定めて解約予告をする必要があります。派遣先都合解約による場合,派遣先は,関連会社等をあっせんするなど,派遣労働者の新たな就業機会の確保を図る義務があります。これによっても,就業機会が確保されなかった場合には,派遣元は,派遣労働者に対して休業手当を支給するなどの損害を被ることが予想され,そのような損害を賠償する義務があります。さらに,派遣元から請求があった場合には,解除理由を明示しなければなりません。

5.さいごに

 今回の法改正は,派遣労働者の賃金その他の待遇を改善し,無期雇用労働者と同等のものにすることを主眼としていますが,賃金をとってみても,改正法の規定に素直に従うと,派遣料金は派遣先の通常の労働者の賃金よりも高くなってしまうため,無期雇用労働者と同等にすることが果たして本当に可能なのかというところがあります。他方で,無期雇用労働者として一度雇用してしまうと,解雇するのがとても大変です。
 今後,派遣労働者をどのように受け入れるのかという点は,非常に悩ましいところといえます。現段階では,未だ改正法は施行されていませんので,改正法の求めるところがどこまで実現するのか,ひとまずはその動向を見守っていくことになろうかと思います。

 

(参考文献)
第一東京弁護士会労働法制委員会(2019)『詳解 働き方改革関連法』労働開発研究会
以 上


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