外国人労働者総論

弁護士 山口 正貴  
 
1.はじめに

 日本の少子高齢化が叫ばれて久しくなりました。
 より少ない生産者人口で高齢者世代を支えることになった日本は、今月から社会保障費等の捻出のために消費税の増税にも踏み切りました。
 今後、生産者人口の確保が大きな課題となりますが、かつてから議論されてきたのが、外国人材の活用です。厚労省によると、平成30年10月末現在において、外国人労働者数は1,460,463人で、前年同期比181,793人、14.2%の増加となっており、平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新しているそうです。
 普段コンビニやスーパーマーケット等で買い物をする際に、外国人の店員がレジ打ちをするという場面にもよく遭遇するようになってきたと思います。
 今回は、今後ますます数が増加すると思われる外国人労働者について、外国人労働者と日本人労働者との違いはどこにあるのかや雇用の際のポイントについて簡単に解説していきたいと思います。
 

2.在留資格とビザ

(1)  在留資格とは
 
 外国人労働者と日本人労働者の違いとして、もっとも大きいのが、外国人労働者が日本に適法に滞在し就労をするには、就労ができる在留資格を有していなければならないという点です。
 在留資格とは、外国人が日本に入国後に在留できる身分または地位に基づく活動を類型化したものであり、原則として外国人はそれぞれ一つの在留資格を入国審査官から与えられて日本に入国します。
 在留資格には、いくつか種類があり、有している在留資格によって日本において認められている活動内容が異なっています。
 日本において認められている在留資格としては、大きく分けて、①日本で行う活動に着目して分類されたものと、②身分や地位に着目して分類されたものの2種類があります。
 ①の具体例としては、教授、高度専門職、経営・管理(企業等の経営者・管理者など)、法律・会計業務、医療、研究、教育(語学教師など)、技術 ・人文知識 ・国際業務(技術者、通訳など)、介護(介護福祉士など)、技能(外国料理の調理師、スポーツ指導者など)、短期滞在、研修、家族活動、特定活動等があります。
 また、②の具体例としては、永住者、日本人の配偶者等、定住者などがあります。
 ②の在留資格は、活動内容に制限がないため、就労活動に従事することができますが、①の在留資格者は、自らの有している在留資格とは別の在留資格に該当する活動を行うことはできません。
 ①の在留資格の例をみればよく分かると思いますが、短期滞在や家族活動などの一部の例外を除き、いずれも専門的な技術・技能や知識を必要とするような活動内容に限定していることがよく分かると思います。
 日本政府は、あくまでも「どんな外国人であっても日本に受け入れるのではなく、日本に貢献できる高度な技術や知識を有する外国人のみを日本に受け入れる」という姿勢をとっています。
 ちなみに、最近コンビニなどで単純労働に従事する外国人をよくみかけますが、彼らは、「留学」や「文化活動」、「特定活動」の在留資格で日本に滞在しつつ、在留資格で許可されている活動を阻害しない範囲で報酬を受ける活動を行う「資格外活動許可」という許可を得て、原則として週28時間以内という制限付きで勤務している例外的な存在がほとんどです。

(2)  ビザとは

 在留資格と非常に紛らわしい言葉が「ビザ」です。
 日常よく耳にする「ビザ」という言葉は「在留資格」の意味合いで用いられていることが多い(例えば「就労ビザ」「ビザが切れる」など。)のですが、実は「ビザ」と「在留資格」は別物です。
 「ビザ」は旅行先の国々の在日大使館や領事館の査証部、または各国の政府が与える「入国のための事前審査証」のことを指します。つまり、「ビザ」とは、「その外国人を入国させても問題ないですよ」という推薦を入国先に対してするものであり、入国審査の場面以外では用いません。なお、日本のパスポート所持者は、多くの国々への一定期間の訪問に対しビザ免除が許されていますので、短期の観光などの場合ではビザのことを考えなくてもよいケースが多いと思われます。


3.在留期間

 外国人が在留資格で認められた活動を行うために在留できる期間を在留期間といいます。外国人は在留期間満了日までに当該活動を終えて出国しなくてはなりません。
 在留期間を認定するのは入国管理局(厳密には法務大臣)ですが、どのような在留期間が認められるのかは、在留資格や、外国人の具体的な活動内容、個々の状況によっても異なるとされています。なお、「永住者」や「特別永住者」の在留資格には在留期間が設けられておらず、更新なく永久的に日本に在留することができます。
 外国人が在留資格で認められた活動を継続するために在留期間を延長したい場合は、在留期間満了日までに住所地を管轄する地方入国管理局に出頭し、在留期間更新許可申請を行う必要があります。申請が許可されるためには、素行不良でないこと、納税義務を履行していることなどのいくつかの要件があり、当該申請が認められれば、認められた期間の分だけさらに日本に滞在して、認められた活動を行うことができるようになります。
 

4.外国人労働者を雇用する際のポイント

(1)  在留資格と在留期間の確認
 
 外国人労働者を雇用する際には、その外国人の持つ在留資格と在留期間を確認することが重要です。適法な在留資格を持たない外国人を就労させたり、在留資格で認められた活動以外の就労をさせたりすると、事業主にも刑罰を科せられてしまいます。事業主が在留資格の確認を怠っていた場合には、たとえ不法就労であることを知らなかったとしても処罰を免れることができません。
 中長期在留者と呼ばれる外国人は、在留カードと呼ばれる運転免許証ほどの大きさの証明書を所持していますので、外国人労働者を雇い入れる際には、在留カードをみせてもらい、どのような在留資格を有しているのか、在留期間はいつまでなのか等を確認することが重要です。
 なお、近年では様々なバックグラウンドをもつ人が増えてきたため、目の前の人が日本人なのか外国人なのかの判断が難しい場合があります。この点について、採用面接時において、人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地・その他社会的差別の原因となるおそれのある事項をこちらが積極的に質問することは、あまり好ましくないとされています(平成11年労働省告示第141号)。また、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」では、「通常の注意力をもって当該者が外国人であると判断できる場合」に在留資格などを確認すればよいとし、「通常の注意力をもって当該者が外国人であると判断できる場合とは、特別な調査等を伴うものではなく、氏名や言語などから、当該者が外国人であることが一般的に明らかである場合をいう」とされています。このため、例えば、通称として日本名を用いており、かつ、日本語の堪能な者など、通常の注意力をもっては、当該者が外国人であると判断できない場合には、在留資格を確認しなくてもよいとされています。
 したがって、あまり多くはないと思われますが。今後採用候補者が日本人なのか外国人なのか判断がつきかねる場合には、採用面接段階では適法な就労資格を有しているかどうかのみを確認するなどといった配慮・工夫が必要となるでしょう。

(2)  雇入れ時及び離職時の届出

 もう1点日本人労働者と大きく異なる点は、ハローワークへの届出です。
雇用対策法に基づき、外国人労働者がその能力を適切に発揮できるよう、外国人を雇用する事業主には、外国人の雇入れ、離職の際に、その氏名、在留資格などについて確認し、ハローワークへ届け出ることが義務づけられています。
 届出を怠ってしまうと、30万円以下の罰金が科せられる場合がありますのでご注意ください。

 (3)  外国人固有の宗教・文化等への配慮

 外国人労働者は、言語・宗教・文化等で日本人労働者と大きく異なっています。
 宗教でいうと、たとえばイスラム教の方は、毎日決まった時間の礼拝や、豚肉を食さないなどの文化があります。
 また、日本語能力の問題から、気軽になんでも相談できる存在が身近にいないことも想定され、使用者や周囲の従業員が気づかないうちに労働意欲が低下したり、メンタルを病んでしまったりすることもあります。
 「郷に入れば郷に従え」なんて言葉もありますが、就労における職場環境や安全への配慮も使用者の義務の1つとされています。外国人労働者と日本人労働者の言語宗教文化の違いを理解し、例えばコミュニケーションにおいては、大事なものごとは母国語で説明文書を渡したり、日本語の指示説明をシンプルにしたり、宗教面では礼拝の時間の扱いを事前に協議したりするなど、事業所の規模に応じて可能なかぎりの配慮をして、外国人労働者が職場において孤立してしまわないようにすることが、職場全体における士気向上や、労働者の定着率の向上につながるでしょう。


5.おわりに

 外国人材の活用について、近年、技能実習制度の改正と、特定技能制度の新設が大きくニュースでとりあげられています。これらの新制度により外国人材の受入れの裾野が大きく広がることとなっています。
 次回の私の担当回では、技能実習制度と特定技能制度の制度の概略を簡単に解説してみようと思います。
 また、これまで在留期間に上限のあった「特定活動」の在留資格についても最近法改正があり、一定の要件を充足すれば、更新に上限なく、就労できるようになりましたので、こちらも併せてご紹介したいと思います。
 今後外国人雇用が問題になることが増えていくと思われますので、ご興味があれば、是非ご覧ください。
 

6.参考文献

板倉由実・弘中章・尾家康介編著(2018年)『現場で役立つ!外国人の雇用に関するトラブル予防Q&A』(労働調査会)
嘉納英樹編著(2019年)『はじめての外国人雇用』(労務行政)
以 上 


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