ア |
具体例
(以下,いずれの具体例も,父Aを被相続人とし,母B,子C及びDを相続人とします。)
父Aは,自分の所有する土地につき,「〇〇所在の土地を子Cに相続させる。」という遺言書を作成し,その後に亡くなりました。しかし,その土地につき,子Cの登記が未了であったため,子Dにおいて,子Dの共有持分権を4分の1とする旨の登記をした上で,第三者Eに売却し,第三者Eはその旨の登記をしました。
子Cは,第三者Eから,共有持分権を取り戻すことができるのでしょうか(なお,母が第三者Eに対して共有持分権の返還を求めることはしないものとします。)。
|
イ |
改正前
特定の遺産を特定の相続人に対して「相続させる」旨の遺言は,遺贈と解すべき特段の事情のない限り,原則として遺産分割方法の指定とみるべきであり,その対象となった遺産は,何らの行為をすることなく,相続開始(被相続人の死亡)により,直ちにその相続人に承継されます。そのため,法定相続分を超えて相続分が指定されたことで自己の法定相続分を超えて不動産を取得した者は,登記をせずとも,第三者に対してその権利を主張(法律上「対抗」といいます。)することができます(最判平成14年6月10日)。
上記具体例でいえば,自己の法定相続分(4分の1)を超えて土地を取得した子Cは,第三者Eに対して,自己に土地の所有権があることを,登記をせずとも主張(対抗)することができますので,子Cは,第三者Eに対して,土地の所有権に基づき,所有権(共有持分権)移転登記手続を求めることができると考えられます。
しかし,第三者において,他人の遺言の内容など知りえないのが通常ですし,第三者Eとしても,子D名義の共有持分権の登記を信じて土地を購入したのであって,子Cからの請求はいわば不意打ちのようなものといえます。
また,判例によれば,遺贈による不動産の権利取得については,登記なくして第三者に対抗できない(最判昭和39年3月6日)とする一方,上記のような遺産分割方法の指定や,相続分の指定(遺言書の記載例として「長男と次男にそれぞれ相続財産の2分の1を相続させる。」など)による不動産の権利取得については,登記なくとも第三者に対抗できる(最判平成5年7月19日)とされており,整合性に問題があるとの指摘もありました。
|
ウ |
改正後
改正法では,相続人が遺言(相続分の指定,遺贈,遺産分割方法の指定)や遺産分割により権利を承継した場合,その相続人は,“法定相続分を超える部分”について,登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない旨規定され,対抗問題につき,画一的になりました(改正法第899条の2第1項)。
したがって,登記をしていなかった子Cにおいて,第三者Eに対して主張(対抗)可能なのは,自己の法定相続分である4分の1の共有持分権のみとなり,それを超えて第三者Eが取得した共有持分権の返還を求めることはできません。
|