債権法改正D  契約不適合責任

弁護士 福原 勇太  
 
1.  はじめに

 現行民法における売買契約の瑕疵担保責任(現行法570条,566条)が,改正民法では全面的に見直され,契約不適合責任の規定が新設されます(改正法562条〜564条)。本稿では,瑕疵担保責任の概要及び問題点,契約不適合責任の概要について,ご説明します。


2. 現行法の概要及び問題点

(1)   「隠れた瑕疵」の不明確さ  

 現行法570条には,売主は,「売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき」に瑕疵担保責任を負うと規定されています。しかし,この文言のみから,「瑕疵」とは何か,何をもって「隠れた」瑕疵なのかは分かりません。これは少々不親切です。
 (ちなみに,「瑕疵」とは,「その目的物が通常有すべき品質・性能を欠く状態」をいいます。そして,「通常有すべき品質・性能」を判断する際,契約当事者がどのような品質・性能を予定していたのかが重要となります。また,「隠れた」瑕疵とは,買主が契約時において,知らなかったか,もしくは知るよしもなかったような瑕疵をいいます。)


(2)   目的物によって変わりうる救済内容  

ア.  特定物と不特定物

 現行民法では,売買契約の目的物が「特定物」か「不特定物」かによって,隠れた瑕疵があった場合に買主が受けられる救済内容が違いました。
 「特定物」とは,買主がその個性に着目して選択した目的物を指します。例えば中古車などです(中古車1台1台にそれぞれ個性があるためです。)。これに対して,「不特定物」とは,買主が,その個性ではなく,種類のみに着目して選択した目的物を指します。例えば新車などです。
 特定物に隠れた瑕疵があった場合,売主は債務不履行責任(現行法415条)を負うことはなく,瑕疵担保責任のみを負います。なぜならば,たとえ瑕疵があっても,「買主が選んだその特定物を引き渡す」という債務は履行されているためです(現行法483条参照)。そのため,買主は売主に対して,損害賠償,契約解除を求めることはできるものの,目的物の修補や代替物の引き渡しを求めることはできません。
 一方,不特定物に隠れた瑕疵があった場合,売主は債務不履行責任を負います。なぜならば,「その種類でかつ瑕疵のない物を引き渡す」という債務は,いまだ履行されていないからです。債務不履行責任ですので,買主は売主に対して,損害賠償,契約解除のみならず,目的物の修補,代替物の引き渡しを求めることができます。


イ.  損害賠償の範囲

 債務不履行責任の場合には,履行利益(買主が瑕疵のない物だと信じたことによって被った損害)及び信頼利益(目的物に瑕疵がなければ買主が得られたであろう利益)の賠償を求めることができます。一方,瑕疵担保責任の場合には,履行利益のみの賠償を求めることができるとされています(もっとも,債務不履行責任と異なり,売主の帰責性は問われません。)。


ウ.  権利行使可能期間

 債務不履行責任を求められるのは,権利行使が可能となった時(引渡しを受けた時)から10年間とされています(現行法166条1項,167条1項)。一方,瑕疵担保責任を求められるのは,買主が瑕疵の存在を知った時から1年間,または引渡しを受けた時から10年間(最判平成13年11月27日)とされています(現行法570条,566条,167条1項)。

エ.   まとめ

 以上のように,現行法上,特定物と不特定物とでは,隠れた瑕疵があった場合に買主が受けられる救済内容が違います。しかし,その理由を合理的に説明するのは困難でした。


3. 改正法の概要

    改正点のうち,大きな部分は以下のとおりです。
(1)   契約不適合責任  

 「隠れた瑕疵」という文言ではなく,「引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」という文言が用いられるようになり,適用場面が分かりやすくなりました。
 また,特定物,不特定物のいずれであっても,契約に適合しないことを理由として後記(2)の各請求ができるようになりました。


(2)   請求権の内容 

 目的物が「種類,品質又は数量」に関して契約に適合しない場合,買主は売主に対して,以下の請求をすることができます。
ア.  契約不適合責任に基づく目的物の修補請求,代替物の引渡請求及び不足分の引渡請求(履行追完請求といいます。改正法562条1項)

イ.  契約不適合責任に基づく代金減額請求(改正法563条1項)

ウ.  債務不履行に基づく損害賠償請求,解除(改正法564条,415条,543条)
 以上のように,代金減額請求が可能となったこと,特定物についても履行追完請求が可能となったことがポイントです。
 もっとも,契約に適合しないことにつき,買主に帰責事由がある場合には,履行追完請求,代金減額請求,解除はできません(改正法562条2項,563条3項,543条)。また,契約に適合しないことにつき,売主に帰責事由がない場合には,損害賠償請求はできません(改正法564条,415条1項ただし書き)。

(3)  損害賠償の範囲 

 目的物が種類,品質又は数量について契約に適合しない場合,買主は債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができます。このときに賠償請求できる損害の範囲は,前記2(2)イのとおり,信頼利益及び履行利益ということになります。このように,現行法と異なり,特定物についても履行利益の賠償請求ができるようになりました。

(4)  期間制限 

 売主が「種類又は品質に関して」契約内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合,「買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知」しなければ,買主はその不適合を理由として,履行追完請求,代金減額請求,損害賠償請求及び解除をすることができません(改正法566条本文)。契約不適合責任を追求できるのは,目的物の「種類,品質及び数量」が契約に適合しない場合とされているので,「数量」の不適合については通知が不要ということになります(数量不足は,目的「物」に関する不適合とは言いがたいためです。)。
 また,「種類又は品質」の不適合であっても,売主が引渡し時に当該不適合を知り,又は重大な過失により知らなかった場合には,通知不要とされています(同条ただし書き)。
 なお,「知った時から1年以内」の通知は,請求権が消滅しないように,いわば請求権を「保存」するためのものであり,通知によって「保存」された請求権は,一般の消滅時効の規定(改正法166条)が適用されます。「通知」が不要である数量不足の不適合責任についても,同じく,一般の消滅時効の規定が適用されます。


4. おわりに
 
 現行法における瑕疵担保責任の規定と,改正法における契約不適合責任の規定を比較すると,改正法の方が,文言が明確になったので,皆さまにとっても理解しやすいものとなったと思います。
 もっとも,そもそも民法の規定は,当事者間でその規定に相当する合意がない場合に,補充的に適用されるものです。そのため,仮に,当事者間で契約不適合責任に関する合意がなされていない場合に,改正法のものが適用されることとなります。その場合には,1年前通知(前記3(4))を怠らないようにご注意ください。

以 上

◇参考文献
 ・ 「民法U 債権各論」(内田貴著)
 ・ 「民法(債権関係)改正法の概要」(潮見佳男著)
 ・ 「要綱から読み解く 債権法改正」(第一東京弁護士会司法制度調査委員会編
   



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