ア. |
特定物と不特定物
現行民法では,売買契約の目的物が「特定物」か「不特定物」かによって,隠れた瑕疵があった場合に買主が受けられる救済内容が違いました。
「特定物」とは,買主がその個性に着目して選択した目的物を指します。例えば中古車などです(中古車1台1台にそれぞれ個性があるためです。)。これに対して,「不特定物」とは,買主が,その個性ではなく,種類のみに着目して選択した目的物を指します。例えば新車などです。
特定物に隠れた瑕疵があった場合,売主は債務不履行責任(現行法415条)を負うことはなく,瑕疵担保責任のみを負います。なぜならば,たとえ瑕疵があっても,「買主が選んだその特定物を引き渡す」という債務は履行されているためです(現行法483条参照)。そのため,買主は売主に対して,損害賠償,契約解除を求めることはできるものの,目的物の修補や代替物の引き渡しを求めることはできません。
一方,不特定物に隠れた瑕疵があった場合,売主は債務不履行責任を負います。なぜならば,「その種類でかつ瑕疵のない物を引き渡す」という債務は,いまだ履行されていないからです。債務不履行責任ですので,買主は売主に対して,損害賠償,契約解除のみならず,目的物の修補,代替物の引き渡しを求めることができます。
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イ. |
損害賠償の範囲
債務不履行責任の場合には,履行利益(買主が瑕疵のない物だと信じたことによって被った損害)及び信頼利益(目的物に瑕疵がなければ買主が得られたであろう利益)の賠償を求めることができます。一方,瑕疵担保責任の場合には,履行利益のみの賠償を求めることができるとされています(もっとも,債務不履行責任と異なり,売主の帰責性は問われません。)。
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ウ. |
権利行使可能期間
債務不履行責任を求められるのは,権利行使が可能となった時(引渡しを受けた時)から10年間とされています(現行法166条1項,167条1項)。一方,瑕疵担保責任を求められるのは,買主が瑕疵の存在を知った時から1年間,または引渡しを受けた時から10年間(最判平成13年11月27日)とされています(現行法570条,566条,167条1項)。
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エ. |
まとめ
以上のように,現行法上,特定物と不特定物とでは,隠れた瑕疵があった場合に買主が受けられる救済内容が違います。しかし,その理由を合理的に説明するのは困難でした。 |