債権法改正④  保証

弁護士 山口 正貴  
 


第1 保証とは

 今回は改正民法の解説第4弾として、保証について取り上げたいと思います。保証は、民法の中でも、私たちの生活になじみの深い制度ですので、その改正点についてはよく把握しておきたいところです。
 例えばある人が他人にお金を貸し付けた際、その返済可能性を増加させる方法としては、主に2つの方法があります。1つは抵当権等の物的担保をとることです。もう1つの返済確保手段が、人的担保をとることであり、保証契約はこの人的担保の代表例です。主債務者が借金を返済できない場合に、保証人がその借金返済の責任を主債務者と同じく負うことによって、債務の弁済の確保を図る制度です。
 保証契約には大きく分けて2つの種類があり、ひとつは契約時において特定している債務を保証する通常の保証(例として住宅ローンの保証があります。)、もうひとつが将来発生する不特定の債務を保証する根保証(例として継続的な事業用融資の保証があります。)です。


第2 保証契約におけるいままでの問題点

 個人による保証は、事業上の必要性や親族間等の情誼に基づいてなされるケースが多いですが、実際に当該債務の履行を求められるかどうかは保証契約締結時には不明瞭であるということから、安易に保証契約を締結してしまい、その後保証人が想定外の過大な債務の履行を求められてしまって生活が破綻するケースが後を絶ちませんでした。そのため、今回の民法改正において、個人による保証契約締結を全面的に禁止したほうがよいのではないか、という意見もあったようです。
 しかしながら、保証制度が日本において広く認められ運用されてきたことや、その経済上の意義も無視できないということで、個人による保証を禁止するのではなく、保証人の保護を手厚くすることで、個人による保証制度を存続させることになりました。


第3 今回の改正点

 主な改正点としては、①個人保証の際に求められる様式を厳格にしたこと、②保証人に対する情報提供義務を新設したこと、③個人根保証契約という概念を新設したこと、の3点が挙げられます。以下、順に解説します。

1 改正①:個人保証の様式の厳格化

 保証制度は、特に中小企業向けの融資において、主債務者の信用の補完や、代表者等に個人責任を負わせることにより杜撰な経営がされるのを防止するという観点から、重要な役割を果たしていました。
 そのため、事業用融資における保証の制限のうち、経営者による保証については、有用な場合があることは否定できない以上強力な規制は不適当とされた一方で、第三者による保証については、できるかぎり抑制するという方向になりました。
 そこで、事業のために負担した貸金等債務の保証人が個人である保証契約については、保証人が主債務者である株式会社の取締役等である場合や過半数株主である場合など一定の例外(新465条の9)を除き、公的機関である公証人が保証人になろうとする者の保証意思を事前に確認しなければ無効となる制度が新たに新設されました(新465条の6)。
 公証人は、国民の権利義務に関係し、私的紛争の予防の実現を目指す公証事務を扱う中立な公務員です。公証人は、原則として、判事や検事などを長く務めた法律実務の経験豊かな者で、公募に応じた者の中から、法務大臣が任命することとされています(公証人法第13条)。
 その公証人が、保証人になろうとする者に対して、保証しようとする主債務の内容をきちんと認識しているかどうかや、主債務が履行されないときにはその責任を負うことになるという保証の意味合いを理解しているか、その前提として、主債務者から情報の提供をうけたかどうか(後述します。)などを見極め、その意思を確認できた場合にのみ、公正証書を作成し、保証契約を有効とするという制度を創設しました。保証人になろうとする者が、保証契約のリスクを十分に理解していると公証人が判断した場合にのみ保証契約が締結されることになりますので、保証債務の履行請求がきてはじめてその重大性に気がつく、という事態が減少することが期待されます。

2 改正②:保証人に対する情報提供義務


(1) 主債務者の保証人への情報提供義務

 保証人は、主債務者がその債務を履行できないときに、主債務者とともにその責任を負う立場にあります。そうすると、保証人になろうとする者にとって重要なことは、主債務者の財産状況等を事前に十分に把握することです。しかしながら、現行法においては、主債務者には、保証人に対して自らの財産状況等を保証人に説明する義務を負っておらず、かつ、債権者も主債務者の財産状況等を保証人に伝える義務を負っていませんでした。
 そこで今回の改正において、まず、主債務者による保証人への情報提供義務の規定が新設されました。具体的には、個人に対して事業用の債務の保証を委託する場合(貸金債務の保証に限りません。)、主債務者は、自らの財産及び収支の状況、主債務以外の債務の有無、その債務の額、その債務の履行状況、担保として提供するものといった情報を提供すべき義務を負います(新465条の10第1項)。
 さらに、保証人が主債務者の財産状況等について誤認し、主債務者が情報を提供しなかったこと等を債権者が知り、又は知ることができた場合には、保証人は保証契約を取り消すことができることになりました(同2項)。この制度は、債権者が悪意有過失の場合と限定こそされていますが、主債務者に落ち度があった場合、主債務者ではなく債権者が不利益を被るという建付けになっています。今後、債権者としては、主債務者に対し、保証人への情報提供義務をきちんと履行したかを確認する運用が求められることになるかもしれません。


(2) 債権者の保証人に対する情報提供義務

 上に述べた情報提供義務は、契約締結時点における主債務者の義務ですが、契約締結後における債権者の義務も新たに規定されました。主債務の履行状況に関する債権者の保証人に対する情報提供義務です。
 主債務者が主たる債務について債務不履行に陥ったものの保証人がそのことを長期にわたって知らず、保証人が債権者から請求を受ける時点で遅延損害金等が積み重なってしまっていた、なんて事態が発生したら大変です。
 そこで、債権者は、保証人から請求があった場合、主債務の元本・利息・違約金等に関し、その不履行の有無、残額、残額のうち弁済期が到来しているものの額について情報を提供する義務を負うことになりました(新458条の2)。ただし、このような請求ができるのは、主債務者から委託を受けた保証人に限られています。
 例えば、主債務が貸金返還債務であってその返済が分割でなされることになっており、かつ分割払いを二度遅滞したら、債務の全残額を一括で支払う契約となっていた場合とします。この制度があることにより、もしも主債務者が分割払いを遅滞することを保証人が知ったとしたら、保証人が早期に立て替え払いをすることによって、全残額を一括で支払わなくなってしまう事態を避けられるようになることが期待されます。
 さらに、契約後において、債権者が主債務者の期限の利益の喪失に関する情報を保証人に提供しなければならないという義務を負う制度も新設されました(新458条の3)。


3 改正③:個人根保証契約の新設

 根保証については従来から通常の保証とは異なる規制がすでに存在していました。平成16年の民法改正により、主債務者の範囲に貸金等債務が含まれている根保証契約であって、個人が保証人であるもの(貸金等根保証契約)を対象として、極度額(責任を負いうる最大の額のことです。)の定めのない根保証は無効とされ(現465条の2)、元本確定期日までの期間も原則として3年とされ(現465条の3)、元本確定期日到来前であって、保証人や主債務者の死亡・破産等が発生した場合には、その時点で元本が確定することとされていました(現465条の4)。
 しかし、貸金等債務以外の根保証(賃貸借や継続的売買)であっても、例えば、借家が賃借人の落ち度により焼失したケースなど、想定外の多額の保証債務を負担しうるという点は、貸金等債務を根保証する場合とは変わらず、さらなる保証人保護の必要が議論されていました。
 その結果、今般の改正では、上記の保証人保護制度のうちの、極度額の定めがないと契約が無効になるという制度と、破産・死亡などの事情があれば元本が確定するという制度の2つについては、その対象が、保証人が個人である根保証契約(個人根保証契約)一般に拡大されました。(新465条の2・4第1項)。
 他方で、貸金等根保証契約については、最長でも5年以内に主債務の元本が確定するなどし(新465条の3)、主債務者が破産し、もしくは債権者から強制執行等を受けた場合には、元本は確定しますが(新465条の4第2項)、このような規律の対象は個人根保証一般には拡大されていません。これは、例えば、個人根保証契約の典型例である不動産賃借人の債務を保証する根保証契約のケースにおいてこのような規律を及ぼすと、賃貸人としては、保証契約の存在を前提として賃貸借契約を締結したにもかかわらず、賃貸借契約の終了前には根保証契約の元本が確定し、その後は保証がないまま賃貸の継続を強いられるといった不都合が生ずる恐れがあること等を考慮したものとされています(5年以上の期間不動産を賃借する人は数多くいますよね。)。


第4 その他

 改正民法の施行日は、2020年4月1日となっています。しかしながらこの施行日には2つの例外があり、ひとつは定型約款(2020年3月31日までに反対の意思表示をすれば改正法不適用に。)です。そして、もうひとつが今回取り上げた保証のうちの、公証人による保証意思確認手続についてです。事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約は一定の例外がある場合を除き、事前に公正証書が作成されていなければ無効となりますが、施行日から円滑に保証契約を締結することができるよう、施行日前である2020年3月1日から公正証書の作成が可能となっています。


第5 おわりに

 保証契約は、リスクが大きい契約であり、その点に着目して民事法上の規制が少しずつ進められてきています。しかしながら、日常生活において、ときには保証人にならざるを得ない場面もあると思いますし、保証制度があるからこそできることも多いのも事実です。実際、私も家族や親戚の支援をいただいたからこそ奨学金を借りて大学院を無事に修了することができました。
 保証を一概に悪と決めつけるのではなく、そのリスクやリターン、又は人間関係を慎重に吟味しながら、主債務者と保証人相互にとってよりよい契約ができるよう、うまく利用していきたいものです。


第6 参考文献

 ・ 民法(債権関係の改正に関する説明資料)-重要な実質的改正事項- 
(法務省民事局)
 ・ 民法(債権関係)改正法の概要 
(潮見佳男著 金融財政事情研究会 2017年)
 ・ NBL第1121号 改正民法の実務的影響を探る 第5回保証(下) 
(商事法務 2018




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