消費税転嫁対策特別措置法について | ![]() |
弁護士 関 義之 | |
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先日、平成26年4月に消費税率が8%に引上げになることが確定しました。また、平成27年10月には10%に引上げになることが予定されています。消費税率の引上げは、大企業にとっても中小企業にとっても大きな経営課題となりますが、特に中小企業にとっては、消費税率引上げ分の価格転嫁(消費税を価格に上乗せすること)ができなければ利益の減少に直結し、また、納税資金の増加による資金繰りの悪化など、経営に多大な影響を及ぼしかねません。 平成9年時にも3%から5%へと消費税率の引上げがなされましたが、その際、売上高の小さい企業ほど価格転嫁できなかった状況があり、今回の引上げにおいても、より一層の厳しい状況が予想されています。 そこで、国は、今回の消費税率引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的として、平成25年6月12日に「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(以下「消費税転嫁対策特別措置法」といいます。)という新しい法律を公布し、同法は、同年10月1日から施行されています(なお、この法律は、平成29年3月31日まで適用される時限立法です)。
消費税転嫁対策特別措置法では、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保という目的を実現するために、以下の4つの「特別措置」を定めております。
以下では、ガイドライン(後述)で示されている具体例をいくつかご紹介します。詳細は、ガイドラインをご参照ください。 @では、大規模小売事業者等の特定事業者による特定供給事業者に対する以下の4つの転嫁拒否等の行為が禁止されています。違反をすると、公正取引委員会等が立入検査を行い、指導・助言、勧告・公表の対象となります。 (1) 減額又は買いたたき (減額の例) 消費税を含まない価格(本体価格)が100円の商品について、消費税率引き上げ後の対価を108円として契約したにもかかわらず、支払い段階で消費税率引き上げ分の3円を減じ、105円しか支払わない場合 (買いたたきの例) 本体価格が100円の商品について、消費税率引き上げ後の対価を105円のまま据え置く場合 (2) 商品購入、役務利用又は利益提供の要請 (商品購入・役務利用の要請の例) 消費税率引き上げ分の全部又は一部を上乗せすることを受け入れる代わりに、取引先にディナーショーのチケットの購入、自社の宿泊施設の利用等を要請する場合 (利益提供の要請の例) 上記上乗せを受け入れる代わりに、消費税率の引き上げに伴う価格改定や、外税方式への価格表示の変更等に係る値札付け替え等のために、取引先に対し、従業員等の派遣を要請する場合 (3) 本体価格での交渉の拒否 (例)特定供給事業者が消費税を含まない価格(本体価格)と消費税額を別々に記載した見積書等を提出したため、本体価格に消費税額を加えた総額のみを記載した見積書等を再度提出させる場合 (4) 報復行為 (例)特定供給事業者が公正取引委員会等に対し、(1)〜(3)の行為があるとしてその事実を知らせたことを理由に、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること Aでは、事業者がいわゆる「消費税還元セール」のような消費税に関連した以下の3つの表示をすることを禁止しています。違反をすると、消費者庁等が立入検査を行い、指導・助言、勧告・公表の対象となります。 (1) 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示 (例)「消費税は当店が負担しています。」等 (2) 取引の相手方が負担すべき消費税を対価の額から減ずる旨の表示であって、消費税との関連を明示しているもの (例)「消費税率上昇分値引きします。」等 て、(2)の表示に準ずるものとして内閣府令で定めるもの (例)「消費税増税分を後でキャッシュバックします。」等 Bでは、いわゆる総額表示義務が緩和され、外税表示や税抜価格の強調表示(税抜価格と税込価格を併記し、税抜価格を強調して表示する方法)が認められています。 Cでは、独占禁止法で禁止されているカルテルの適用除外が認められ、転嫁カルテル(消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為のこと)及び表示カルテル(消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為のこと)が可能となります。 (転嫁カルテルの例) 各事業者がそれぞれ自主的に定めている本体価格に消費税額分を上乗せする旨の決定 (表示カルテルの例) 税率引上げ後の価格について、個々の値札に、税抜価格を表示した上、「+税」と表示する旨の決定等の、統一的な表示方法を用いる旨の決定 紙面の都合上、ここでは詳細のご説明はできませんが、筆者が作成に携わった「消費税の転嫁対策特別措置法 5つのポイント」という日本商工会議所発行の小冊子や、「消費税転嫁対策特別措置法の概要」についての東商新聞の連載記事(全3回)では、絵や図表を用いて分かりやすく解説しておりますので、併せてお読みいただければ幸いです。 いずれも、リンク先のHPでご覧いただけます。
消費税転嫁対策特別措置法は、平成25年10月1日から施行されましたが、その前後から、様々な動きがあります。これからも平成26年4月の引上げに向けて様々な動きが予想されますが、一旦、現時点(平成25年12月27日現在)の情報を整理しておきたいと思います。 (1) 消費税転嫁対策特別措置法のガイドライン 前述の特別措置は、@とCが公正取引委員会、Aが消費者庁、Bが財務省と消費者庁と、それぞれ所管が分かれています。 また、この特別措置に関して、平成25年9月10日、法運用の透明性確保や事業者の予見可能性を高めること等を目的に、所管の公正取引委員会、消費者庁及び財務省から各ガイドラインが公表されました。また、ガイドライン案がパブリックコメントに付された際に提出された意見の概要とこれに対する考え方も併せて公表されています。 この2つは、消費税転嫁対策特別措置法の要件に該当するかを判断するのにもっとも重要な指針となりますので(具体的な要件や具体例が説明されています)、該当場面においては是非原文をご確認ください。 @についてのガイドライン等 ● 消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方 ○ 「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方(案)」に対する意見の概要とこれに対する考え方 Aについてのガイドライン等 Bについてのガイドライン等 ● 総額表示義務に関する消費税法の特例に係る不当景品類及び不当表示防止法の適用除外についての考え方 Cについてのガイドライン等 ● 総額表示義務に関する特例の適用を受けるために必要となる誤認防止措置に関する考え方 (2) 消費税転嫁対策の特設ページ 消費税転嫁対策特別措置法を始め、消費税の転嫁対策に関して、政府等に特設ページが開設されています。必要な情報は、このあたりから探すことができます。 ○ 日本商工会議所 「消費税価格転嫁対策支援(消費税転嫁対策窓口相談等 ○ 消費者庁 (3) 消費税転嫁対策の相談窓口 政府等に専門の相談窓口が設けられていますのでご紹介いたします。 ○ 各地の商工会議所 各地の商工会議所は、「Web商工会議所名簿」で検索できます。 政府共通の相談窓口です。 ○ 公正取引委員会 消費税の転嫁拒否等の行為等に係る相談・違反情報の受付 買いたたき等に関する相談窓口です。 転嫁カルテル・表示カルテルに関する相談窓口です。 各省相談窓口一覧もあります。 ○ 下請かけこみ寺 消費税転嫁対策相談専用のフリーダイヤルが開設されています。 (4) 消費税転嫁対策に関する資料 政府等において公表されている各種資料です。
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