改正労働者派遣法の概要
弁護士 西部 俊宏  

 近年,労働者派遣に関連し,「日雇派遣」といった派遣労働者の保護の安定の観点から問題のある形態や,「偽装請負」,リーマンショックの影響による「派遣切り」の多発が大きな社会問題となったため,これらの問題に対応するため労働者派遣法が改正されました。以下,労働者派遣法の改正により新たに課される事項につき,派遣先について課される事項,派遣会社に課される事項,双方に課される事項,その他に分類してその概要を説明します。

1 派遣先について新たに課される事項

(1)
 
  労働契約申込みみなし制度(平成27年10月1日施行)
 労働契約申込みみなし制度とは,派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合,違法状態が発生した時点において,派遣先が派遣労働者に対して労働契約(直接雇用)の申し込みをしたものとみなす制度です。この制度は平成27年10月1日からの施行となっています。
 この制度の対象となる違法派遣は次のものです。
@ 労働者派遣の禁止業務に従事させた場合
A 無許可・無届の派遣元事業主から労働者派遣を受け入れた場合
B 派遣可能期間を超えて労働者派遣を受け入れた場合
C いわゆる偽装請負の場合(請負等の名目で,派遣契約を締結せずに労働者派遣を受け入れた場合)
 派遣可能期間の制限に違反しないか,偽装請負か否か等,違法派遣の該当性は判断が難しい場合がありますので慎重な対応が必要です。
 
(2)   派遣先の都合で派遣契約を解除するときに講ずべき措置
 派遣先の都合により労働者派遣契約を中途で解除する場合には,派遣労働者の新たな就業機会の確保,休業手当などの支払いに要する費用の負担などの措置をとることが,派遣先の義務とされました。なお,派遣契約時にこれらの措置について派遣契約に明記しなければなりません。

2 派遣会社,派遣先の双方に新たに課される事項

(1)

  離職後1年以内の人を元の勤務先に派遣することの禁止
 派遣会社が離職後1年以内の人と労働契約を結び,元の勤務先に派遣することはできなくなりました。元の勤務先が該当者を受け入れることも禁止されます。ただし,60歳以上の定年退職者は禁止対象から除外されます。
 禁止対象となる勤務先の範囲は「事業所」単位ではなく,「事業者」単位となる点に注意が必要です。
(2)   均衡待遇の確保
 派遣会社は,派遣労働者の賃金を決定する際,以下の点に配慮しなければなりません。
@ 派遣先で同種の業務に従事する労働者の賃金水準
A 派遣労働者の職務の内容,職務の成果,意欲,能力,経験など
 また,教育訓練や福利厚生などについても均衡に向けた配慮が求められます。
 派遣会社が上記の配慮を行うことができるよう,派遣先には,派遣会社に対し,必要な情報を提供するなどの協力が求められます。

3 派遣会社について新たに課される事項

(1)
  
  日雇派遣の原則禁止  
 日雇派遣(派遣会社と派遣労働者との間の雇用期間が30日以内の労働者の派遣)は原則禁止になりました。ただし,次のアまたはイは例外として認められます。

 禁止の例外として政令で定める業務
 @ソフトウエア開発,A機械設計,B事務用機器操作,C通訳,翻訳,速記,D秘書,Eファイリング,F調査,G財務処理,H取引文書作成,Iデモンストレーション,J添乗,K受付・案内,K研究開発,L事業の実施体制の企画・立案,M書籍等の制作・編集,N広告デザイン,OOAインストラクション,Pセールスエンジニアの営業,金融商品の営業
 以下に該当する人を派遣する場合
(ア) 60歳以上の人
(イ) 雇用保険の適用を受けない学生
(ウ) 副業として日雇派遣に従事する人(生業収入500万円以上の者)
(エ) 主たる生計者でない人 (世帯収入500万円以上)

(2)   グループ企業派遣の8割規制
 あるグループ企業内の派遣会社から,当該グループ企業に派遣する割合が8割以下に制限されます。
 この派遣割合は,派遣元の全派遣労働者のグループ企業での総労働時間から定年退職者のグループ企業での総労働時間を控除した時間を,派遣元の全派遣労働者の総労働時間数で除した数字となります。
 グループ企業の範囲は,派遣会社が連結子会社の場合は派遣会社の親会社,派遣会社の親会社の子会社であり,親子関係は連結決算の範囲で判断されます。派遣会社が連結子会社でない場合は,派遣会社の親会社等,派遣会社の親会社等の子会社等であり,親子関係は,外形基準(議決権の過半数を所有,出資金の過半を出資など)で判断されます。

(3)   マージン率などの情報提供,派遣料金の明示
 労働者や派遣先となる事業主がより適切な派遣会社を選択できるよう,関係者に対する情報公開として,インターネットなどにより派遣会社のマージン率や教育訓練に関する取り組み状況などの情報提供が義務化されます。
 マージン率は,派遣料金(派遣先が派遣会社へ支払う料金)の平均額から賃金(派遣会社が労働者に支払う支払う賃金)の平均額を控除した金額を,派遣料金の平均額で除した数字です。
 また,派遣労働者の雇入時,派遣開始時,派遣料金額の変更時には,派遣労働者の「労働者派遣に関する料金額(派遣料金)」の明示が義務化されます。
<明示すべき派遣料金(次のうちいずれかを明示します)>
@ 派遣労働者本人の派遣料金
A 派遣労働者が所属する事業所における派遣料金の平均額(1人あたり)
<明示の方法>
 書面・FAX・Eメールのいずれか

(4)   待遇に関する事項などの説明義務
 派遣会社は,労働契約締結前に,派遣労働者として雇用しようとする労働者に対して,以下の事項の説明をすることが義務化されます。
@ 雇用された場合の賃金の見込み額や待遇に関すること
A 派遣会社の事業運営に関すること
B 労働者派遣制度の概要

(5)   有期雇用派遣労働者の無期雇用への転換推進措置
 派遣会社は,有期雇用の派遣労働者(雇用期間が通算1年以上)の希望に応じ,以下のいずれかの措置をとるよう努めなければなりません。
@ 無期雇用の労働者として雇用する機会の提供
A 紹介予定派遣の対象とすることで,派遣先での直接雇用を推進
B 無期雇用の労働者への転換を推進するための教育訓練などの実施

(6)   派遣労働者が無期雇用労働者か否かを派遣先への通知事項に追加
 派遣元から派遣先への通知事項に,派遣労働者が「期間を定めないで雇用する労働者か否か」が追加されました。
以  上  



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