日本における相続について
(その3・遺言を中心に)
弁護士 高原 わかな  


相続が発生した場合、遺言がなければ、相続人全員の協議により遺産を分割することになります。この遺産分割協議については、前回(その2)、簡単にその概要をお話ししました。
では、遺言があった場合は、どのようになるのでしょうか。今回は、その3として、まず、遺言とは何かを中心に、お話をしてみたいと思います。



●遺言とはなにか?

遺言とは、一般には、「死後のために物事を言い遺すこと」を意味しますが、法的には、「一定の方式に従って、自分の死後に一定の効果が発生することを意図した個人の最終の意思表示」をいいます。

遺言は、遺言した人(遺言者)が亡くなって初めて、その効力を生じるため、その内容が不明確であったとしても、遺言者本人にその真意を確認することができません。
そこで、どのようなやり方(方式)で遺言をするかについては、法律で厳格に定められています(方式の問題)。
また、後々の争いを防ぐために、遺言をすることができる事項についても、法律で定められています(遺言事項の問題)。
さらに、誰でも遺言ができるわけではなく、一定の能力が要求されます(遺言能力の問題)。

なお、この遺言制度は、国によって異なります。そのため、どんなやり方で遺言すればよいか、自分の遺言した内容が現実に実行できるかどうかは、どこの国の法律によって判断するかによって、結論が異なる可能性があります。この点については、本稿の最後で簡単に触れますが、日本人が日本で遺言をする場合であっても、その内容によっては特別な考慮が必要となりますので、ご注意いただきたいと思います。


では最初に、日本民法における遺言について、その概要を説明したいと思います。


●誰でも遺言をすることはできますか?(遺言能力)

民法では、「15歳に達した者は、遺言をすることができる」(民961)と定められています。つまり、通常の取引行為と異なり、未成年者でも、15歳になれば遺言をできることになります。
ただし、成年被後見人(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html)が遺言をするためには、その真意を確保し、適正な後見事務遂行を確保するため、特則が定められています(民973、966)。
また、15歳以上であっても、意思能力がない人がした遺言は無効となります。遺言した当時に、遺言者に意思能力があったか否かについては、後日争いになることがありますが、通常人としての正常な判断力・理解力・表現力を備え、遺言内容について十分な理解をしていた場合には、遺言に関して意思能力があると判断されることになります。


●どんなことを遺言できますか?(遺言事項)

自分の思いを遺すという意味でいえば、どんな内容でも遺言書に記載することはできます。しかし、法的な効力を生じさせることができる(強制的に遺言内容を実行できる)事項については、民法で限定的に定められており、具体的には以下のような事項となります。

@ 法定相続の修正に関する事項
(相続人の廃除〈民893〉、相続分の指定〈民902〉、遺産分割方法の指定〈民908〉など)
A 遺産の処分に関する事項
(遺贈〈民964〉、財団設立のための寄附行為〈民41U〉、遺言信託〈信託2〉など)
B 身分に関する事項
(認知〈民781U〉、未成年後見人の指定〈民839T〉など)
C 遺言執行に関する事項
(遺言執行者の指定〈民1006T〉など)
D その他
(祭祀主宰者の指定〈民897T但書〉など)
以上のようなことについて、遺言することができますが、家業・事業を承継するこどもがいる場合など、法定相続とは異なる内容で自分の財産を相続させたいときは、遺言を作成することの必要が高いでしょう。
また、再婚その他の事情により共同相続人間の交流がない場合など、相続人間で円滑に遺産分割協議を行うことが難しい場合や、内縁関係にある人や相続人でない人・施設に財産を譲りたい場合も、遺言を作成しておくことをお勧めします。

なお、付言事項といって、法律上効果のある遺言事項とは別に、遺言者の想い(なぜこのような遺言を書いたか等)や相続人に是非とも伝えたいことを記載することがあります。
法定相続分より少なくなる相続人がいる場合など、遺言の内容によっては、相続人が不平等感を抱くことがありますが、付言事項の記載によって、相続人の納得を得たり、わだかまりが消えることもありますので、人生最後の意思表示として、活用されてはいかがかと思います。


●遺言によって、財産を処分するにはどのような方法がありますか?

財産処分に関する遺言事項については、@相続分の指定、A分割方法の指定、B遺贈があります。

@相続分の指定

相続分の指定とは、法定相続分と違う割合で相続することを定めることをいいます。(配偶者の法定相続分は2分の1ですが、それを4分の3にしたり、配偶者とこどもたちへ平等に配分するために、配偶者とこども2人に各3分の1づつとしたりすること)
ただ、この方法は、あくまで相続割合を指定するだけなので、この内容を実現するには遺産分割が必要となり、共同相続人全員による遺産分割協議書等が必要です。

A分割方法の指定

分割方法の指定とは、遺言者の持っている財産のうち、何をどの相続人に相続させるかを、具体的に指定することをいいます。
実務上多用されている「相続させる旨の遺言」は、特段の事情がない限り、この分割方法の指定による遺言とみなされています。
この方法は、遺産分割協議をすることなく、相続人に財産を取得させることができますので、具体的な財産を特定の相続人に取得させたい場合には、こちらの方法をとるのがよいでしょう。

例) 遺言者は、その所有する別紙目録記載の土地建物を長男である○○(昭和×年×月×日生)に相続させる。

B遺贈

遺贈とは、遺言によって、遺産の全部または一部を、特定の人に対して取得させることをいい、目的となる財産を包括的に指定する(全部、2分の1等)ことも、特定して指定することもできます。

例) 遺言者は、遺言者の所有する財産の全部を、遺言者の内縁の妻○○(昭和×年×月×日生)に包括して遺贈する。(包括遺贈)
例) 遺言者は、遺言者の所有する財産のうち3分の1を、孫である○○(平成×年×月×日生)に遺贈する。(割合的遺贈)
例) 遺言者は、その所有する別紙目録記載の土地建物を姪である○○(平成×年×月×日生)に遺贈する。(特定遺贈)

なお、A分割方法の指定とB遺贈の違いですが、Aは法定相続人に対して財産を取得させる場合に限りますので、法定相続人以外の人に財産を取得させたいときは、遺贈をするしかありません。また、不動産の場合、Aは不動産の相続を受ける相続人が、単独で所有権移転登記ができますが、Bの場合には、受遺者と共同相続人(または遺言執行者)が共同で所有権移転登記を申請しなければなりません。

このように遺言者は、遺言によって自分の財産を自由に処分できますが、一方で、民法には遺留分制度(亡くなった人(被相続人)が持っていた財産(相続財産)について、その一定の割合の承継を一定の相続人に保証する制度)があります。遺留分制度については次稿でご説明したいと思いますが、後日のトラブルを防止するには、各相続人の遺留分についても十分配慮して、遺言をすることも大切です。


●遺言書の書き方に決まりはありますか?(遺言の方式)

日本民法では、普通方式として、@自筆証書遺言、A公正証書遺言、B秘密証書遺言の3種類が定められており(民967)、特別方式として、@死亡の危急に迫った者の遺言(民976)、A伝染病隔離社の遺言(民977)、B在船者の遺言(民978)、C船舶遭難者の遺言(民979)の4種類が定められています。なお、特別方式による遺言は、法律の定めた特定の状況に該当する人だけがすることができます。
それぞれの遺言ごとに、民法で要件が定められていますが、メリットとデメリットがありますので、自分の希望に一番あった方式を選択するのがよいでしょう。

以下、普通方式を中心に、メリット・デメリットや注意点をご紹介したいと思います。

@自筆証書遺言(民968)

【要件・注意点等】
(作成)
自筆証書遺言とは、遺言者が、遺言書の全文・日付・氏名を自分で書き、押印して作成する方式の遺言です。
まず、全ての方式に当てはまることですが、遺言は、複数の人が同じ書面で遺言をすることはできません(共同遺言の禁止)。例えば、共有する不動産に関する遺言であっても、共有者が同じ書面でその承継について遺言することはできませんので、必ず一人1つの書面で、遺言書を作成する必要があります。
自筆証書遺言は、全文を自分で書かなければならないので、字の書けない人は利用できませんし、ワープロソフトを使って作成した遺言は、自筆の署名があっても、無効となります。なお、使用する言語については、制限はないため外国語であっても、他の要件を充たしていれば有効となります。
日付は、年月日が客観的に特定されなければなりませんので、例えば「65歳の誕生日」は有効となりますが、「平成24年3月吉日」では無効となります。
押印については、その印章には制限はなく(いわゆる実印でなくともよい)、指印でもよいとされています。ただ、後日の争い(別人が勝手に作った等)を防止するという意味では、実印を押印する方が望ましいと思います。
内容についての加除訂正については、厳格な要件(民968U)が定められていますので、訂正する場合は、注意を払う必要があります。

(保管)
保管場所や方法については特に法律で決まっていませんが、銀行の貸金庫や自宅の貴重品入れ等に保管したり、相続人に前もって渡しておく方法が考えられます。

(検認)
自筆証書遺言の内容を実行するにあたっては、家庭裁判所において「検認」という手続きが必要となります。

【メリット・デメリット】
この自筆証書遺言は、作成にあたって第三者(公証人や証人)が関与する必要がないため、誰にも知られずに遺言を作成でき、また、費用もほとんどかからないというメリットがあります。また、作成後の事情や状況の変化に応じて、遺言書を作り替えることも容易です。
一方、自分だけで作ることが多いため、法定の要件を充たしているかを確認してもらう機会がなく、方式不備で無効となる可能性もあり、また、保管の方法によっては、相続人に発見されない危険、滅失する危険、改ざんの危険等があります。なお、検認が必要なため、遺言内容を実行するまでに、ある程度時間や手間がかかる点もデメリットと考えられています。なお、費用はかかりますが、弁護士等に相談しながら、自筆証書遺言を作成することは可能ですので、その場合は、方式不備による無効リスクを軽減することができます。


A公正証書遺言(民969)

【要件・注意点等】
(作成)
公正証書遺言は、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。
通常は、遺言者が公証役場に出向き作成します(場合によっては公証人に出張してもらって作成することもあります)。
そして、証人2名以上の立会いの上、遺言者が、遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人が遺言者の口述を筆記し、公証人が遺言者及び2名以上の証人に読み聞かせ(又は閲覧させ)、遺言者・証人・公証人が署名押印して作成します。
なお、口がきけない人や耳の聞こえない人も、特則がありますので、公正証書遺言を作成することができます(民696の2)。
証人については、法律で証人になれない人が定められています(欠格事由、民974)。
具体的には@未成年者、A推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、B公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人は、証人となることができません。とすると、実際には、親しい友人・知人か遠い親戚等に証人をお願いすることになりますが、遺言書を作成することや、遺言の内容を知られてしまうことになりますので、なかなか適切な人が見つからないこともあります。

(保管)
遺言書の原本は、公証役場に保管され(日本公証人連合会本部のシステムに登録)、遺言者に正本と謄本が渡されます。

(検認)
公正証書遺言の場合、遺言の執行にあたって検認手続きは不要となります。

【メリット・デメリット】
公証人により作成されるので、内容の正確性が保たれる上、作成にあたって遺言意思の確認がなされるため無効を主張される可能性が少ないというメリットがあります。また、公証人が原本を保管するので、破棄・隠匿・偽造の危険も少なく、相続人により検索もできますし、遺言執行にあたって家庭裁判所の検認の手続きが不要となります。
しかし、証人2名の立会いが必要なため、遺言という極めてプライベートな事項について、他人(公証人と証人)に知られてしまうという点や作成に関する時間的経済的コスト(必要資料の収集等の事前準備、公証役場に行かなければならない、作成手数料等)がかかるといったデメリットがあります。 なお、費用はかかりますが、弁護士に依頼して公正証書遺言を作成する場合は、遺言内容について相談できるだけでなく、通常その弁護士等が証人となるため、自分で証人を用意する必要はなくなりますし、戸籍謄本等の必要資料の準備や公証人との事前相談も弁護士を通じて行うことになりますので準備の手間を省くこともできます。

B秘密証書遺言(民970)

【要件・注意点等】
(作成)
秘密証書遺言とは、遺言者が作成し封印した遺言書を、公証人と証人の前に提出し、その存在を明らかにすることを目的として行われる遺言をいいます。つまり、遺言の内容は秘密にしつつも、遺言の存在は公証人の関与により明らかにできるという方法です。
具体的には、まず、遺言者が遺言書を作成し、署名押印をする必要があります。
自筆証書遺言とは異なり、全文を自分で書く必要はなく、ワープロソフトを使って作成してもよいですし、他人に書いてもらっても問題ありません。また、日付の記載も必ずしも必要ではありません。ただし、氏名は自書する必要があります。
次に、その遺言書を封じて、遺言書に押印した印章で、封印する必要があります。
そして、その封印した封書を、公証人と2名以上の証人の前に提出して、自己の遺言書である旨、その筆者の氏名と住所を申述し、公証人が、その封書を提出した日付と遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者・公証人・証人がこの封紙に署名し押印することで、作成手続きは終了し、その日に遺言が作成されたことになります。
口がきけない人や耳の聞こえない人も、特則がありますので、秘密証書遺言を作成することができますし、証人の欠格事由については、公正証書遺言と同様です。
なお、秘密証書遺言としての方式を充たさない場合でも、自筆証書遺言としての方式を充たしていれば、自筆証書遺言として有効となります。

(保管)
封印した秘密証書遺言は、遺言者が保管することになりますが、認証文や封筒の写しは公証役場に保管され、オンラインシステムにも登録されます。

(検認)
秘密書遺言の内容を実行するにあたっては、家庭裁判所において「検認」という手続きが必要となります。

【メリット・デメリット】
秘密証書遺言のメリットとしては、遺言内容は秘密にした上で、遺言の存在を明確にできる点があります。自筆証書遺言の場合は、第三者の関与が全くないため、未発見のリスクがありますが、秘密証書遺言の場合、公証役場に認証文等の写しが保管され、オンライン登録されるため、相続人等が公証役場に問い合わせれば、遺言の存在を確認することができます。また、全文を手書きをする必要はないため、字を書くのが不自由な人でも利用できます。さらに、封印を確認した上で作成され、その写しが公証役場に保管されるため、偽造のリスクも少ないといえます。
一方、デメリットとしては、遺言内容について、第三者の確認を受ける機会がないため要件不備による無効リスクや内容が不明瞭なためトラブルとなるリスクがあります。また、2名以上の証人が必要なため、信頼のおける証人を自分で用意しなければなりませんし、遺言の存在について少なくとも公証人と証人には秘密にできません。さらに、公正証書遺言よりは安価ですが、作成手数料がかかりますし、遺言内容を実現するにあたって家庭裁判所における検認手続が必要なため、時間的経済的コストがかかります。

以上、簡単に遺言の作り方に関する注意点やメリット・デメリットを説明しましたが、時間の経過により具体的な財産内容が変化したり、遺言者を取り巻く環境も変わることは十分予想されます。そのため、一度作った遺言内容を見直したり、変更する必要性が生ずることもありますが、その場合について簡単に説明します。


●遺言は一度作ってしまうと、内容を変更することはできないのでしょうか?

(撤回の方法)
遺言者は、生きている間は、いつでも何度でも遺言を撤回することができますが、遺言を撤回するときには、遺言の方式に従ってしなければなりません(民1022)。
つまり一度作った遺言を撤回したり、変更したりするには、法の定める方式によった遺言によってする必要はありますが、同じ種類の遺言で行う必要はなく、公正証書遺言の内容を撤回・変更する場合に、自筆証書遺言によってその旨を記載してもかまいません。

(撤回擬制)
また、前の遺言と後の遺言とで内容が異なるときは、その異なる部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされますし(民1023T)、遺言内容と異なる生前処分を遺言者がした場合(民1023U)や遺言者が故意に遺言書や遺贈目的物を破棄した場合(民1024)も遺言を撤回したものとみなされます。


では最後に、簡単に外国の要素が絡むケースについて、考えてみたいと思います。


●外国に住んでいる日本人がその地で遺言をする場合は、どこの国の法律に従って遺言を作ればよいのでしょうか?

日本における相続(その1)でも触れましたが、渉外的法律関係(外国的要素が含まれる法律関係)に関して、どこの国の法律を適用するかを定めた法律を、国際私法といいます。遺言に関する日本の国際私法としては、法の適用に関する通則法(通則法)、遺言の方式の準拠法に関する法律がありますし、遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約も批准しています。
気をつけなくてはならないのは、国によって国際私法の内容も異なるので、どこの国で問題となるかによって遺言に関して適用すべき法律が異なる可能性があることです。つまり、遺言の効力を認めてもらう必要がある国がどこなのかという点から、どこの国の国際私法によって判断すべきかを検討しなければならないということになります。なお、当該渉外的法律関係について適用すべき法律を準拠法といいます。

では、外国でなされた日本人の遺言が、日本で認められるかという点を考えてみたいと思います。
この問題については、方式の問題と遺言内容の問題に区別して、考える必要があります。つまり、方式の問題については、遺言の方式の準拠法に関する法律に定められている準拠法にしたがって遺言が作成されていなければなりせん。また、遺言内容の問題については、個別の内容ごとに、通則法に定められている準拠法によって適法とされなければなりません。
例えば、外国に住んでいる日本人男性が、その地で自筆で遺言書を作成し、認知や遺産分割方法を指定する内容の遺言をしたとします。
この場合、まずこの遺言書が法律上の遺言として認められるかについては、@行為地法、A遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法、B遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法、C遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法、D不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法のいずれか法律で認められた方式に従っていればよいことになります(遺言の方式の準拠法に関する法律2条)。
つまり、上記の例であれば、日本法(本国法)か遺言をした国の法律(行為地法・住所地法・常居所地法)にしたがっていればよいこととなります。
次に、遺言で認知や遺産分割方法の指定ができるかどうか等については、それぞれの準拠法により決まります。
認知であれば、通則法29条により、@子の出生当時における父の本国法(認知当時における子の本国法により、要件が加重される場合あり)、A認知当時における認知する者の本国法(認知当時における子の本国法により、要件が加重される場合あり)、B認知当時における子の本国法のいずれかが準拠法となります。日本法は、Aにより準拠法となりますので、遺言により認知をすることは認めらます。ただし、子が外国籍の場合は、その国の法律で、子または第三者の承諾や同意を認知の要件としているときは、この要件を充たす必要があります。
遺産分割方法の指定については、相続の問題となるので、通則法36条により被相続人の本国法が準拠法となり、日本法が適用されますので、遺言で遺産分割方法の指定をすることは認められます。

以上は、日本で遺言が認められるかという問題ですが、外国にある不動産を遺贈する場合など遺言を執行する場所が外国である場合は、その国で遺言が有効と認められないと遺言内容を実現できない可能性があります。この場合は、その国の国際私法にしたがって準拠法を判定し、その準拠法によって、遺言の方式と内容が有効であるかを判断しなければなりません。
なお、方式に関しては、日本人が遺言する場合、日本法に定める方式にしたがっていれば、遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約批准国では常に適法とされ、その他の国でも、不適法とされる可能性は低いと言われています。なお、日本人が外国で遺言する場合の便宜を図って、民法984条(日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う)が定められています。

以上、本稿(その3)では、遺言をするときのことを中心に、その概略を説明しました。
次稿では、「その4」として、遺言書を見つけた場合の手続き等や遺留分制度について、簡単に説明したいと思います。



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