インターネットにおける名誉毀損について
弁護士 田村 祐一  


  最近は、ブログ
*1やmixi、facebook、TwitterなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)*2を利用することにより、誰もが手軽に情報発信できる世の中になりました。多くの人が一度くらいはインターネットで情報発信した経験を持っているのではないでしょうか。
  しかし、インターネットは誰もが気軽に情報発信ができるというメリットがある反面で、発信をする以上は他人の権利を侵害するリスクが常にあるため、責任をもって情報発信をすることを意識しなくてはいけません。また、いつの間にか自分がネット上で誹謗中傷の対象にされて事件に巻き込まれる危険性があることにも気をつけなくてはなりません
*3
  そこで今回は、インターネット上の情報発信における責任・危険性の中の「名誉毀損」について検討したいと思います。


1 名誉毀損とは

  例えば、あなたがある企業A社について、「最近、A社の製品で不具合が見つかることが多い。」等というネットの記事を読んだり、人伝の噂で聞いたりして、その事を自分のブログに書いたとします。自分としてはいつもブログを見てくれている友人達に対してちょっとした注意を促すくらいの軽い気持ちで書いたつもりが、何かの理由であなたのブログで注目を集め、突然アクセスが増え、トラックバック
*4もされ、それがあっという間に広まってしまう、こんなことがインターネット上では容易に起こりえます。やがてその記事はA社の法務部の社員の目にもとまり、「あなたの記事は事実に反しており我が社の名誉を毀損している。ついては直ちに当該記事をブログから削除し、誤りであった旨の謝罪記事も出すように。応じない場合には損害賠償請求も考えている。」などと通知がきたとしたら・・・。
  また、これとは逆にあなた自身がA社の社員だった場合はどうでしょう。会社の顧客から突然、「A社の製品は最近不具合が多いという記事をインターネット上で発見したが、これは本当なのか。」等と言われた場合、あなたはA社の社員としてどのように対処すべきでしょうか。

(1)名誉毀損について
  そもそも名誉とは何なのか、判例は、名誉とは「人が人格的価値について社会から受ける客観的評価」であるとしています。つまり、名誉毀損とは人の客観的評価を低下させるような事実を不特定多数人に向けて発信する行為をいいます。
  そして、名誉毀損を行った者に対しては、民事上の責任として不法行為による損害賠償責任(民法709条)が、刑事上の責任として名誉毀損罪(刑法232条)が問われる可能性があります。
  上述のような場合にも、このような話がインターネット上に流れればA社製品の信頼性が低下して売れ行きに悪影響を及ぼす可能性もあるため、まさに名誉毀損に該当するものということができます。

(2)表現の自由とのバランス
  しかし、このような情報発信行為が常に名誉毀損に該当するとしていいのかという疑問もあります。仮にこの話が本当だった場合には、消費者はその情報を知る権利があるし、自分の情報発信が名誉毀損にあたるかもと常に心配しなくてはならないとすれば表現活動に萎縮効果が生じるという表現の自由への影響も懸念されます。
  そこで、表現の自由・知る権利とのバランスを図るため、表現の対象が@公共の利害に関する事実であり、その表現活動をするにつきA専ら公益を図る目的があり、かつ、B当該事実が真実だと証明された場合には処罰されないとされています(刑法230条の2)。もっとも、現実問題としてある事実が真実であると立証することは容易ではない場合が多く、これだけでは表現の自由の保護が不十分であると考えられるようになりました。そこで判例は、「夕刊和歌山時事」事件(最大判昭44.6.25刑集23巻7号975頁)においてBの要件が満たされなかったとしても、
B’「行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときには、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である」としました。
  なお、上記2つはいずれも刑事責任についての話ですが、民事の不法行為責任についても同様の話が妥当すると考えて頂いて差し支えありません。
  
(3)匿名性の問題点
  ここでインターネット特有の問題として、完全な匿名に対する名誉毀損が成り立つかという問題があります。
  例えば、価格.com
*5http://kakaku.com/)やYahoo!知恵袋*6http://chiebukuro.yahoo.co.jp/)、食べログ*7http://r.tabelog.com/)といったサイトでは、ほとんどの場合匿名を用いた投稿がされています。これらのサイトは、一般のユーザーが家電についてのレビューをしたり、ネット上で投げかけられた質問に答えたり、飲食店の評価を書いたりして情報交換をするもので、利用者が増えるにつれ信頼性も高まり中にはかなりの数のレビューを書いて信頼を集めるユーザーも存在しています。こういった匿名の人格に対して、「○○のレビューは嘘ばかりで信用できない。」などと名誉毀損的発言がなされた場合、生身の人格ではないバーチャルな人格を批判することが外部的評価の毀損=名誉毀損と言えるのでしょうか。


2 名誉毀損だと言われた場合

  それでは、実際にあなたのブログの記事が名誉毀損にあたると言われた場合にどうしたらいいのか考えてみます。

(1)裁判外での解決方法
  まず、名誉毀損に該当する発言をしたと指摘を受けた場合には、具体的にどの部分が名誉毀損になるかをしっかりと確認します。そして、自分がその情報を書いたソースをたどりそれが真実かどうかを検証する必要があります(本来であれば記事を書く前にしなくてはならない行為です)。
  そして、指摘された通り誤った記事を書いたのであれば、該当記事は削除する、謝罪記事を出すなど、相手方と話し合い、妥当な解決方法を考えていくことになります。
  もっとも、記事を削除したとしても相手方からさらに損害賠償請求を受ける可能性や、謝罪記事としてどのような内容を書くべきか等の問題もあるため、弁護士に相談する等慎重な態度で臨む必要があります。

(2)裁判での解決
  次に、名誉毀損として裁判が提起された場合にどうすればいいのか考えてみます。
  名誉毀損の裁判において争いとなるのは、多くの場合、上記要件のうちBまたはB’であり、これはインターネットにおいても同様と考えられます(@、Aの判断は比較的簡単に判断がつくと考えられます)。そして、インターネットにおける情報発信者に対しても、通常のマスメディアに課されるのと同程度の調査をすることが要求されているため、その記事が真実であると判断した根拠資料を十分にそろえていくことになります(最判一小平22.3.15判タ1321.93)。元になったインターネット上の記事が削除されていく可能性もあるので、該当記事を印刷する等して早めに証拠化をしておく必要があります。

(3)発信者の多様性
  上記判例は、インターネットにおいても従来の名誉毀損の基準をそのまま適用していましたが、果たしてそれは正しいのでしょうか。インターネットの情報発信者は旧来マスメディアと異なり、マスコミの記者、個人でブログを開設している人、小中学生など、情報収集能力に差がある人が集まっています。また、インターネット上の情報量は膨大なためその信頼度にも差があります。さらには、TV、雑誌等の旧来メディアとの違いとして、インターネット上では誰もが容易に情報発信をすることができるため、例えば名誉毀損が行われたような場合にも相手方からそれが間違いであると訂正する内容の情報を発信することもできるのです(このような考え方を「対抗言論」といいます)。
  このようなインターネットの特殊性を考慮し、名誉毀損が成立しないとされる場合を従来通りのB’のような厳しい基準を適用するのは妥当ではないと考える裁判例もあり、例えば東京地判平20.2.29判タ1227.46は、
  「摘示した事実が真実でないことを知りながら発信したか、あるいは、インターネットの個人利用者に対して要求される水準を満たす調査を行わず真実かどうか確かめないで発信したときにはじめて同罪に問擬するのが相当」
と、インターネットを利用した場合の情報収集の必要性の程度を低いものでも構わないという旨の判断を下しました。


3 名誉毀損の被害にあった場合

  次に、自分が名誉毀損の被害者になってしまった場合について考えます。

(1)発信者に対する対処方法
  発信者が知り合いの場合など連絡先が分かっている場合には、その相手方に対し直接に削除依頼を出すことが考えられます。口頭、メール、内容証明郵便など連絡方法としては様々な方法が考えられますので、相手の対応も予測して最も適切な方法を選んでいくことになります。

(2)発信者が分からない場合の対処方法
  (1)の場合と異なり情報発信者が分からない場合には、まずは発信者が誰なのか突き止める必要があります。この場合、ブログの管理をしているプロバイダ
*8等(以下では「管理者」といいます。)に対して特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)第4条1項に基づき発信者の情報開示を求めることになります。
  管理者も分からない場合には、まずHPのドメイン
*9から管理者を特定することが考えられます。
 
(3)発信者が削除に応じない、発信者が特定できない場合の対処方法

@発信者に対する仮処分
  では、発信者が任意に削除に応じてくれない場合にはどうしたらいいのでしょうか。この場合には法的手段をとることになり、できるだけ早期に問題を解決するためには、訴訟よりも早く判断の出る仮処分の申立をすることが考えられます。

A管理者に対する仮処分
  上記のようなケースと異なり、管理者が発信者の匿名性を認めていた等により個人情報を把握できていない場合は発信者がわからないため、仮処分や訴訟をすべき相手が定まらずそれらの手段を講じることができません。
  このような場合は、発信者本人ではなく管理者に対して削除を求めることが考えられます。管理者は情報を発信しているわけではなく単に放置しているだけであり、前提として、管理者が削除義務を負っている必要があります。この点につき裁判例(東京地裁平14.6.26判タ1110.92)は、掲示板の管理者の責任について以下のように判示しています。
  「被告が本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置を講じなかった行為は、原告らの名誉を毀損する不法行為を構成するのであり、・・・、原告らは、それぞれ、人格権としての名誉権に基づき、被告に対し、本件各名誉毀損発言の削除を求めることができるものというべきである。」
として削除義務があることを認めました。
  いかなる場合に管理者に責任が認められるかまでは明らかになっていませんが、著作権侵害の場合の判決(東京高判平成17.3.3判例タ1181.158)において、
  「著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど、速やかにこれに対処すべきものである。」
としていることが参考になると考えられます。

Bその他の方法
  その他の方法として、特殊なやり方ですがGoogleやYahoo!などの検索サイトにあがらないように検索サイトに対して依頼をするという手段もありえます。現在では、多くの人が検索サイトからWebページへアクセスしていることから、事実上アクセスを阻害する(ブログをネット上で孤立させる)ことにより被害の拡散を防ぐことができます。検索サイトについては上述のように削除義務の有無について争われた事例は今のところみあたらないため、現段階では法律上の根拠はなく、検索サイトの方針に則った上で、交渉の上任意に応じてくれることが必要となります。このような手段をとった場合には、(相手方が法人である場合)業務妨害にもなりかねないため、本当に名誉毀損に該当しているか等を十分に検討し特に慎重な判断をする必要があります。
  さらに、記事の削除方法については、独自のガイドラインを設定しその方法以外では基本的に削除を受け付けないというサイトも存在しています。対応の当否についてはここでは言及しませんが、現実的に早期の救済を図るということを考えれば、ケースに応じて適切な対処方法を探していく必要がありそうです
*10

(4)インターネットの拡散性と責任
  インターネットにおける名誉毀損が問題となる一つの大きな原因として、読者の多いブロガーからトラックバック
*4を受ける、Twitterでリツイート*11されることによる拡散性の問題があります。このような場合、元の記事を書いていなかったとしてもその記事を広めた人の責任は問われるのでしょうか。
  この点に関連し、近時、ポータルサイトが名誉毀損に該当する写真が掲載された新聞社の記事のリンクを載せたことについて不法行為責任が成立するという判決が出されました。まだ判決文を見ていないので詳細は分かりませんが、仮に同じことを個人がやった場合に不法行為責任を負うのかといったことも含めて注目すべき判決です
*12


4 インターネットにおける言論のあり方とは

  今回テーマに挙げた名誉毀損以外でも、インターネットの登場からかなりの時間が経っているにもかかわらず、様々な法律問題について十分な対応ができていないことが多く見受けられます。法律の整備が遅れているというのはもちろんですが、より根本的には、情報のあり方が変わった以上、全ての問題を法律で解決すべきなのかということから考える必要があるのではないかと私は考えています。名誉毀損についても、国民全員が情報リテラシー
*13を上げることにより、根拠のない不適切な表現が自然に排除される土壌を形成できるかもしれません。
  また、著作権の運用方法については、クリエイティブコモンズ
*14のように法律ではないユーザーの自主ルールで動き、国家が法により介入するよりも迅速かつ適切な動きを見せていることもあります。このようなことが可能になったのは、インターネットを利用することにより時間、場所を選ばずに人々が議論することができ、いわば直接性民主主義に近い状態を実現できるようになったことも影響しているのではないでしょうか。時代の変化の中で、私たち弁護士の役割も、単に法律の解釈適用をするということだけではなく、そういったユーザーの自主ルール作りへのアドバイザーとしての役割を求められる時代もいつかやってくるのかもしれません。
  話は少しそれましたが、以上がインターネットで名誉毀損行為がなされた場合の対応ということになります。今回書いたことはあくまでも一般的な対処方法の流れであり、現実にこのようなことが起きた場合にはそれぞれ事情が異なっているため、安易に自分で判断することなく、まずは弁護士に相談し、それぞれに事情に適した解決方法を探していくことをお勧めします。


【 参考URL、文献 】

IT弁護士カンダのメモ。「弁護士を使った風評被害・誹謗中傷対策(総論)」
http://kandatomohiro.typepad.jp/blog/2011/01/hiboutaisaku.html?gclid=CNXjxc3K_akCFeFKpgoddSm6zQ

So-netセキュリティ通信「ネットで増える「名誉棄損」 〜 相次ぐ逮捕、最高裁有罪判決も
http://www.so-net.ne.jp/security/news/newstopics_201004.html

ITメディア「ネット上の名誉毀損、どう対処する?」
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0403/01/news072.html

日経BPネット「第16回 プロバイダ責任制限法 掲示板運営時の法的義務を知る」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080307/295666/?ST=selfup

インターネットと法〔第4版〕 有斐閣 高橋和之他編
インターネットの法律Q&A 財団法人電気通信振興会 岡村久道・森亮二


*1 個人がインターネット上で情報発信できるもの
ニュースについてのコメント、日記、エッセイなど内容は様々
*2 Social Networking Serviceの略
従来と異なり一方通行の情報発信ではなく、双方向の通信が可能なもの
*3 タレントが約10年間にわたりある殺人事件の犯人であるという事実無根の誹謗を受け続けたという事件もあった
(http://ameblo.jp/smiley-kikuchi/entry-10203606966.html)
*4 ブログの機能の一つで、当該記事のリンクが別のブログに張られたことを知らせる機能
*5 家電等の評価や販売店舗の価格比較のあるサイト
*6 ネット上での質問に対して他のユーザーが回答し、その中からもっともよい回答者にポイントを付与するもの
*7 ユーザーがレストランの点数付け、レビューをし、ランキング形式で紹介する飲食店の口コミサイト
*8 本来的にはインターネット接続業者を指しますが、ここではより広い意味でインターネット上のプラットフォームとしてサービスを提供する業者と考えます
*9 URLのうちユーザーの所属を示すもの。http://○○.comの○○に相当する部分のこと
*10 参考:2ちゃんねる削除ガイドライン
(http://info.2ch.net/guide/adv.html
)
*11 Twitterで他人の発言をそのままツイート(発言)する行為
*12 参照:配信写真掲載のヤフーにも賠償命令 三浦和義元社長の「手錠姿」
(http://www.j-cast.com/2011/06/16098621.html)
*13 自分の目的に沿って情報を活用できる能力
*14 一定のルールを守れば著作物を自由に利用していいという考え方
(http://creativecommons.jp/licenses/
)


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