日本における相続について
(その1・法定相続を中心に)
弁護士 高原 わかな  



今回は,どんな人でも生涯に少なくとも一度は直面するであろう法律問題として,相続について取り上げてみたいと思います。(相続というとテーマが多岐にわたるので,まず「その1」として法定相続人と法定相続分を中心にお話ししたいと思います)

皆様のご家族が亡くなったとき,まず誰とどんな話合いをすればよいのでしょうか?
亡くなった人が遺言書を残していれば別ですが,遺言がない場合は,法定相続によることになります。そして,最終的に遺産の帰属を確定させるために,相続人全員の合意のもと遺産分割の方法を決める必要があります。

そこで,まず最初に,法定相続,つまり民法で定められた相続人に対して,法定相続分という割合で,亡くなった人(被相続人)の財産上の地位(権利・義務)を承継させるという制度について,簡単にご説明したいと思います。


〜 法定相続人とは誰か?(話合いの当事者) 〜

では,具体的には,亡くなった人とどのような身分関係がある人が,相続人になるのでしょうか?

〈配偶者相続人〉
まず,配偶者がいる場合は,必ず配偶者が相続人となります。この場合の配偶者は,亡くなった人と法律上婚姻していなければならず,事実婚(いわゆる内縁関係)の場合は,相続人とならないと考えられています。

〈血族相続人〉
また,配偶者とは別に,血縁関係のある相続人として,子・直系尊属・兄弟姉妹が定められています。この血縁相続人については,順位がついていて,子が1人でもいれば子のみが相続人となり,子がいなければ直系尊属(父母,祖父母等),直系尊属がいなければ兄弟姉妹が相続人となります。なお,子や兄弟姉妹が相続人になる場合については,代襲相続(※)という制度もあります。

代襲相続
相続人である子(または兄弟姉妹)が,
@ 続開始以前に死亡したとき
A 相続欠格(※)に該当して相続権を失ったとき
B 廃除(※)によって相続権を失ったとき
相続欠格(民法891条)
相続制度の基盤を破壊する重大な非行・不正行為を5つの欠格事由として法定し,その欠格事由に該当すると,相続資格を当然に失うという制度
廃除(民法892条,893条)
被相続人の意思により,家庭裁判所が推定相続人の相続資格を奪う制度


〜 法定相続分とは何か? 〜

また,どのような割合で相続財産を譲り受けるかについては,それぞれの相続人ごとに次のように定められています(法定相続分)。ただし,この割合は,昭和56年1月1日以降に開始された相続について適用されますので,先代や先々代の相続問題を放置したまま,新しい相続が発生した場合には,過去の相続問題を処理するに際して注意しなければなりません。

@ 相続人が,配偶者と子の場合 ⇒ 配偶者が2分の1,子が2分の1
(子が複数の場合は同順位で均等割合,※嫡出でない子)
A 相続人が,配偶者と直系尊属の場合 ⇒ 配偶者が3分の2,直系尊属が3分の1
(直系尊属が複数の場合は同順位で均等割合)
B 相続人が,配偶者と兄弟姉妹の場合 ⇒ 配偶者が4分の3,兄弟姉妹が4分の1
(兄弟姉妹が複数の場合は同順位で均等割合,※半血兄弟姉妹)

嫡出でない子の相続
認知された姻外子(婚姻関係にない男女の間に生まれた子)の相続分は,嫡出子(婚姻関係にある男女の間に生まれた子)の半分となります。

半血兄弟姉妹の相続分
半血兄弟姉妹(亡くなった人と親の一方を共通にするだけの者)の相続分は,全血兄弟姉妹の半分となります。


〜 具体的に考えてみましょう 〜

このように抽象的な言葉で説明しても,よく分からないのが正直なところだと思いますので,具体的に考えてみたいと思います。

【具体例@の1】
先日,父が病気で亡くなりました。私には,両親と兄と妹がいます。
誰がどのような割合で,父の財産を相続しますか?
配偶者である母が2分の1,
子である兄,私,妹が各6分の1(2分の1÷3人)

【具体例@の2】
先日,父が病気で亡くなりました。私には,両親と兄と妹が1人ずついます。
ただ,父が亡くなる数年前に,兄が交通事故で亡くなっています。兄には,妻と子どもが2人(私との関係では甥と姪)います。
誰がどのような割合で,父の財産を相続しますか?
配偶者である母が2分の1,
子である私,妹が各6分の1(2分の1÷3人),
子(兄)の代襲相続人である甥と姪が各12分の1(6分の1÷2人)

【具体例@の3】
先日,父が病気で亡くなりました。私には,両親と兄と妹がいます。
また,父は母と結婚する以前,別の女性と結婚しており,その女性との間に子ども(姉)がいます。
誰がどのような割合で,父の財産を相続しますか?
配偶者である母が2分の1,
子である兄,私,妹,姉(先妻との子)が各8分の1(2分の1÷4人)

【具体例@の4】
先日,父が病気で亡くなりました。私には,両親と兄と妹がいます。
また,父には母以外の女性との間に認知した子ども(弟)がいます。
誰がどのような割合で,父の財産を相続しますか?
配偶者である母が2分の1,
子である兄,私,妹が各7分の1(2分の1÷3.5人)
弟(認知した子)が14分の1(7分の1×2分の1)

【具体例A】
先日,夫が病気で亡くなりました。私たち夫婦には子どもはいません。夫の両親は健在です。夫には兄と妹がいます。
誰がどのような割合で,夫の財産を相続しますか?
配偶者である私が3分の2,
直系尊属である父母が各6分の1(3分の1÷2人)

【具体例Bの1】
先日,夫が病気で亡くなりました。私たち夫婦には子どもはいません。夫の両親はすでに他界しています。夫には兄と妹がいます。
誰がどのような割合で,夫の財産を相続しますか?
配偶者である私が4分の3,
兄弟姉妹である兄と妹が各8分の1(4分の1÷2人)

【具体例Bの2】
先日,夫が病気で亡くなりました。私たち夫婦には子どもはいません。夫の両親もその先代もすでに他界しています。夫には兄と妹がいます。また,夫には母違いの姉(父と先妻との子)も1人います。
誰がどのような割合で,夫の財産を相続しますか?
配偶者である私が4分の3,
兄弟姉妹である兄,妹が各10分の1(4分の1÷2.5人),
半血兄弟姉妹である姉が20分の1(10分の1×2分の1)


〜 具体的相続分 〜

このように日本民法は法定相続分を同一順位においては均等に定めていますが,亡くなった人と各相続人の間にどのような事情があっても,その事情は一切法定相続においては考慮されないのでしょうか?
例えば,相続人の中に亡くなった人から自宅の購入資金を出してもらう等の特別の援助を受けた人がいる場合や,長期間にわたって無償で家業を手伝う等の貢献をした人がいる場合は,原則を貫くと,当然,相続人の間で不平等感が生じることでしょう。
そこで,具体的な相続分を算定するにあたって,そのような事情を考慮するため,民法上「特別受益」と「寄与分」という制度が設けられていますので,その概略について簡単に紹介します。

まず,特別受益の持戻しの制度とは,
共同相続人の中に被相続人から特別受益を受けた者がいる場合に,この特別受益を相続財産額に加算して「みなし相続財産」としたうえで各相続人の相続分を確定し,その上で,特別受益を受けた相続人について,その特別受益額を一応の相続分から控除し,残額をもってこの者の具体的相続分とする制度です(民法903条,904条)。

そして,民法には,特別受益として,遺贈,婚姻・養子縁組のための贈与(持参金,支度金),生計の資本としての贈与(マイホームの購入資金等)が挙げられていますが,特に贈与については,それが特別受益に該当するか否かについて相続人間で争いとなることがあります(例えば,挙式費用・留学資金・生命保険金等)。
また,加算すべき贈与価格は,原則として相続時を基準に算定しますが,実際にいくらと評価するかについて争いとなることもあります。
さらに,超過特別受益者(算定の結果,具体的相続分がゼロまたはマイナスとなる者)の処理については,民法に定めがないため,注意が必要です。

次に,寄与分についてですが,
共同相続人の中に,被相続人の事業に関する労務の提供,被相続人の事業に対する財産上の給付,被相続人の療養看護,またはその他の方法によって,被相続人の財産を維持・増加することに特別の寄与をした者がいる場合には,その寄与分を金銭的に評価し,これを相続財産から控除したものを相続財産とみなし,このみなし相続財産を基礎として各相続人の具体的相続分を算定することになっています(民法904条の2)。
ただし,この寄与は,「被相続人の財産の維持・増加に対するもの」でなければならず,また,「特別の」寄与でなければならないため,どのような行為が特別な寄与となるのかについて,争いとなることがあります。例えば,療養看護の場合で考えると,看護期間や要看護状態などを考慮し,実際に行った看護が,配偶者や子として通常期待される程度の看護を超えている場合で,その看護により被相続人が付添人費用等相当額の支払いを免れた結果,相続財産の維持に著しく寄与したと認められるようなケースであれば,特別の寄与と認めらるでしょう。
なお,具体的に寄与分をいくらとするかについては,寄与の時期・方法・程度,相続財産の額その他一切の事情を斟酌して,共同相続人の協議によって定めるとされています。


〜 被相続人や相続人が外国人の場合 〜

ところで,近年,国際結婚されるカップルも増え,配偶者が外国人であるケースや,日本人夫婦であっても,海外赴任中に現地で出産したため,お子さんが二重国籍であるといったケース,また,日本で生まれた日本人の方でも日本国籍を離脱し、外国籍を取得するケースもあるのではないかと思います。このように,相続人に外国籍の人が含まれることも珍しくはないと思われますが,この場合は,何か異なった取扱いがなされるのでしょうか?
また,亡くなった人(被相続人)自身が外国籍の方であった場合,どのような取扱いになるのでしょうか?

日本で外国的要素の含まれる相続について問題となった場合,相続人の範囲,相続順位,相続分等については,亡くなった人の本国法によるものとされています(法の適用に関する通則法36条)。この本国法という言葉は,あまり聞き慣れないものであると思われますが,その人が国籍を有する国の法律を意味します(なお,二重国籍の場合や,無国籍の場合や,本国が地域によって法律が異なる国の場合については,同法38条に定めがあります)。
つまり,日本においては,亡くなった人が,亡くなったときに国籍を有した国の法律によって,相続人の範囲,相続順位,相続分等について考えるということになります。

とすると,亡くなった人が日本人であれば,その人の相続に関しては日本法が適用されることになり,相続人が外国にいたり,外国人であっても,日本法によればよいことになります。ただ,相続人が海外在住の場合は,制度の違い(戸籍制度や印鑑登録制度がない等)により,実際には手続上煩雑な処理になることは否めませんし,子どもが国際結婚し外国で生活している場合などは,代襲相続人たる孫が日本語が話せないといったこともあり得るため,話合いが難しくなることも考えられます。

逆に,亡くなった人が,外国籍を有していた場合は,原則としてその外国の法律が相続人の範囲,相続順位,相続分等に関して適用されます(ただし,反致(※)や公序(※)の規定により日本法が例外的に適用されることもあります)。

以上のようなことが予想される場合は,なるべく難しい事態が生じないよう事前に家族間で話合いをしておいたり,場合によっては生前贈与や遺言の作成を検討するのもよいかもしれません。もちろん渉外的要素がない場合でも,なるべくスムーズに相続手続が進むよう,家族間で話合いをしたり,遺言を作成することは重要なことであると思います。

相続に関する立法
世界には様々な国があり,国によって立法内容は異なります。
一般に,相続とは,「ある人が亡くなったときに,その人に帰属していたものが一定の関係を有する人々に承継される制度」をいうと考えられています。また,諸外国の相続制度としては,包括相続主義(相続人が亡くなった人のプラス・マイナスの財産一切を包括的に承継する制度)と管理清算主義(遺産管理人が亡くなった人の債権債務関係を処理し,なお余った財産がある場合に相続人がこれを承継する制度)の2つに大別されると言われています。日本は前者(包括相続主義)をとっています。

渉外的法律関係と国際私法
現代社会では,国際売買契約等の取引法の分野から,国際結婚・国際養子縁組といった身分法の分野まで,外国的要素が含まれる多種多様な法律関係(渉外的法律関係)が生じています。
この渉外的法律関係について,いずれの国の法律を適用するかを定めた法を国際私法といいますが,この国際私法も原則として各国ごとに定められています(ただ,条約等,複数の国で統一的に適用されるルールもあります)。日本では,「法の適用に関する通則法」という法律が,このような渉外的法律関係について,いずれの国の法律が適用されるかを原則として定めています。

反致(法の適用に関する通則法41条)
問題となっている渉外的法律関係について,日本の国際私法によると当事者の本国法として外国法が指定される場合に,その外国の国際私法によると日本法が指定される場合には,日本法を適用するというもの。

公序(法の適用に関する通則法42条)
問題となっている渉外的法律関係について,日本の国際私法によると外国法が指定される場合に,その規定を適用すると日本における公の秩序や善良な風俗に反するときは,その外国法を適用しないとするもの。


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