日本における相続について (その1・法定相続を中心に) |
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弁護士 高原 わかな | |
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今回は,どんな人でも生涯に少なくとも一度は直面するであろう法律問題として,相続について取り上げてみたいと思います。(相続というとテーマが多岐にわたるので,まず「その1」として法定相続人と法定相続分を中心にお話ししたいと思います) 皆様のご家族が亡くなったとき,まず誰とどんな話合いをすればよいのでしょうか? 亡くなった人が遺言書を残していれば別ですが,遺言がない場合は,法定相続によることになります。そして,最終的に遺産の帰属を確定させるために,相続人全員の合意のもと遺産分割の方法を決める必要があります。 そこで,まず最初に,法定相続,つまり民法で定められた相続人に対して,法定相続分という割合で,亡くなった人(被相続人)の財産上の地位(権利・義務)を承継させるという制度について,簡単にご説明したいと思います。
では,具体的には,亡くなった人とどのような身分関係がある人が,相続人になるのでしょうか? 〈配偶者相続人〉 まず,配偶者がいる場合は,必ず配偶者が相続人となります。この場合の配偶者は,亡くなった人と法律上婚姻していなければならず,事実婚(いわゆる内縁関係)の場合は,相続人とならないと考えられています。 〈血族相続人〉 また,配偶者とは別に,血縁関係のある相続人として,子・直系尊属・兄弟姉妹が定められています。この血縁相続人については,順位がついていて,子が1人でもいれば子のみが相続人となり,子がいなければ直系尊属(父母,祖父母等),直系尊属がいなければ兄弟姉妹が相続人となります。なお,子や兄弟姉妹が相続人になる場合については,代襲相続(※)という制度もあります。
また,どのような割合で相続財産を譲り受けるかについては,それぞれの相続人ごとに次のように定められています(法定相続分)。ただし,この割合は,昭和56年1月1日以降に開始された相続について適用されますので,先代や先々代の相続問題を放置したまま,新しい相続が発生した場合には,過去の相続問題を処理するに際して注意しなければなりません。
このように抽象的な言葉で説明しても,よく分からないのが正直なところだと思いますので,具体的に考えてみたいと思います。
このように日本民法は法定相続分を同一順位においては均等に定めていますが,亡くなった人と各相続人の間にどのような事情があっても,その事情は一切法定相続においては考慮されないのでしょうか? 例えば,相続人の中に亡くなった人から自宅の購入資金を出してもらう等の特別の援助を受けた人がいる場合や,長期間にわたって無償で家業を手伝う等の貢献をした人がいる場合は,原則を貫くと,当然,相続人の間で不平等感が生じることでしょう。 そこで,具体的な相続分を算定するにあたって,そのような事情を考慮するため,民法上「特別受益」と「寄与分」という制度が設けられていますので,その概略について簡単に紹介します。 まず,特別受益の持戻しの制度とは, 共同相続人の中に被相続人から特別受益を受けた者がいる場合に,この特別受益を相続財産額に加算して「みなし相続財産」としたうえで各相続人の相続分を確定し,その上で,特別受益を受けた相続人について,その特別受益額を一応の相続分から控除し,残額をもってこの者の具体的相続分とする制度です(民法903条,904条)。 そして,民法には,特別受益として,遺贈,婚姻・養子縁組のための贈与(持参金,支度金),生計の資本としての贈与(マイホームの購入資金等)が挙げられていますが,特に贈与については,それが特別受益に該当するか否かについて相続人間で争いとなることがあります(例えば,挙式費用・留学資金・生命保険金等)。 また,加算すべき贈与価格は,原則として相続時を基準に算定しますが,実際にいくらと評価するかについて争いとなることもあります。 さらに,超過特別受益者(算定の結果,具体的相続分がゼロまたはマイナスとなる者)の処理については,民法に定めがないため,注意が必要です。 次に,寄与分についてですが, 共同相続人の中に,被相続人の事業に関する労務の提供,被相続人の事業に対する財産上の給付,被相続人の療養看護,またはその他の方法によって,被相続人の財産を維持・増加することに特別の寄与をした者がいる場合には,その寄与分を金銭的に評価し,これを相続財産から控除したものを相続財産とみなし,このみなし相続財産を基礎として各相続人の具体的相続分を算定することになっています(民法904条の2)。 ただし,この寄与は,「被相続人の財産の維持・増加に対するもの」でなければならず,また,「特別の」寄与でなければならないため,どのような行為が特別な寄与となるのかについて,争いとなることがあります。例えば,療養看護の場合で考えると,看護期間や要看護状態などを考慮し,実際に行った看護が,配偶者や子として通常期待される程度の看護を超えている場合で,その看護により被相続人が付添人費用等相当額の支払いを免れた結果,相続財産の維持に著しく寄与したと認められるようなケースであれば,特別の寄与と認めらるでしょう。 なお,具体的に寄与分をいくらとするかについては,寄与の時期・方法・程度,相続財産の額その他一切の事情を斟酌して,共同相続人の協議によって定めるとされています。
ところで,近年,国際結婚されるカップルも増え,配偶者が外国人であるケースや,日本人夫婦であっても,海外赴任中に現地で出産したため,お子さんが二重国籍であるといったケース,また,日本で生まれた日本人の方でも日本国籍を離脱し、外国籍を取得するケースもあるのではないかと思います。このように,相続人に外国籍の人が含まれることも珍しくはないと思われますが,この場合は,何か異なった取扱いがなされるのでしょうか? また,亡くなった人(被相続人)自身が外国籍の方であった場合,どのような取扱いになるのでしょうか? 日本で外国的要素の含まれる相続について問題となった場合,相続人の範囲,相続順位,相続分等については,亡くなった人の本国法によるものとされています(法の適用に関する通則法36条)。この本国法という言葉は,あまり聞き慣れないものであると思われますが,その人が国籍を有する国の法律を意味します(なお,二重国籍の場合や,無国籍の場合や,本国が地域によって法律が異なる国の場合については,同法38条に定めがあります)。 つまり,日本においては,亡くなった人が,亡くなったときに国籍を有した国の法律によって,相続人の範囲,相続順位,相続分等について考えるということになります。 とすると,亡くなった人が日本人であれば,その人の相続に関しては日本法が適用されることになり,相続人が外国にいたり,外国人であっても,日本法によればよいことになります。ただ,相続人が海外在住の場合は,制度の違い(戸籍制度や印鑑登録制度がない等)により,実際には手続上煩雑な処理になることは否めませんし,子どもが国際結婚し外国で生活している場合などは,代襲相続人たる孫が日本語が話せないといったこともあり得るため,話合いが難しくなることも考えられます。 逆に,亡くなった人が,外国籍を有していた場合は,原則としてその外国の法律が相続人の範囲,相続順位,相続分等に関して適用されます(ただし,反致(※)や公序(※)の規定により日本法が例外的に適用されることもあります)。 以上のようなことが予想される場合は,なるべく難しい事態が生じないよう事前に家族間で話合いをしておいたり,場合によっては生前贈与や遺言の作成を検討するのもよいかもしれません。もちろん渉外的要素がない場合でも,なるべくスムーズに相続手続が進むよう,家族間で話合いをしたり,遺言を作成することは重要なことであると思います。
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