債権の管理・回収について <その2 債権の回収> |
![]() |
弁護士 舘 彰男 | |
![]() ![]() |
4. 債権の回収方法:ある程度の事前の努力があって機能する さて、いよいよ債権回収が必要な事態となったとき、どうすればよいでしょうか。 冒頭に、「そのときになってあわてても駄目」ということを記載しました。 以下、具体的な債権回収方法をご紹介していますが、これらも、ある程度の日頃の努力があって初めて機能するものであることを常に留意してください。 4.1. 法的手続外の回収方法 不払いが起きたとき、相手に対して「支払って下さい」と何度お願いしても、相手に支払うつもりがないとか、そもそも支払える現金がないということならば無駄です。 「相手の任意の履行が期待できないときに、こちらが一方的に行使できる権利によってどれだけ回収できるか」を考えることになります。 主な回収方法は、以下のとおりです。 なお、回収場面においては、取引先が倒産状態にあることを知っていたようなときに、他の債権者に先んじて回収すると、「抜け駆け的であり他の債権者を害する」として、詐害行為取消権や否認権の行使によってその回収行為が取り消されてしまうリスク(回収したものを返さなければならない)が生じます。否認等のリスク判断は難しいところがあり、リスク含みで回収に踏み切るという判断もせざるを得ないときがあるでしょう。 4.1.1 相殺 取引先に対する債権がある一方、債務も負担しているならば、債権と債務を対当額で相殺するこ とで、少なくとも債務金額分の回収はできます。 内容証明郵便により相殺の意思表示をするだけですみますので、簡便な回収方法です。 但し、相殺するには、債権と債務の双方について、履行期限が到来していないと、相殺に適した状態(「相殺適状」)になりませんから、契約時において、相手方に不払いが起きたときや信用不安の状態が起きたときには期限の利益を喪失させる条項を入れておくことが大事です。 4.1.2 代物弁済 現金による回収が無理であれば、他の資産(動産、債権など)をもって弁済してもらうことが考えられます。但し、相手が任意にこれらの資産による弁済をしないということであれば、それらの資産を対象とした仮差押手続に踏み切るしかないでしょう。 4.1.3 商品の引揚げ 取引先に対する債権が、商品の売掛債権であるならば、いったん納品した商品を引き揚げるということも考えられます。 しかし、この方法は、本来、法的手続きをとらなければならないにもかかわらず、それをせずに商品を持ってきた(「自力救済」)として不法行為とされたり、場合によっては刑法上の窃盗罪になってしまう危険があります。 商品の引揚げに関し、承諾権限を有する者から承諾書を取得することは必須ですが、その承諾書の取得の経過自体、「強硬に迫られた」として不法行為になってしまうこともあるので、危険性が高い方法と思われます。 そこで、商品がまだ転売されずに、倉庫などに保管されているならば、それを対象とした法的な保全手続(仮差押え・仮処分)を考えた方が、回収方法自体が違法とされるリスクは回避できます。 なお、所有権留保付きで売却しているときでも、所有権に基づく返還請求権の行使には法的手続を経ないと自力救済とされる危険があり、商品を保全するには、「占有移転禁止の仮処分」又は「断行の仮処分」という法的手続が必要です。 もし、商品が転売されており、かつ、取引先において転売先に対する売掛債権が未回収であるならば、動産売買先取特権による物上代位によって、転売先に対する売掛債権に物上代位して回収することが考えられますから、その検討をすべきでしょう。この場合、転売先の特定ができるかどうかがポイントです。 4.1.4 留置権 留置権とは、弁済を受けるまで、他人の物を留置して、引渡を拒絶できる権利です。 引渡を拒絶することで、相手に対して、弁済を間接的に強制することができるわけです。 また、留置権者は、留置物を競売することができ、この配当には他の債権者は加入できないとされています。 弁済をいつまでも待つわけにもいかないときは競売も考えることになります。 留置権には、民事留置権と商事留置権があり、後者は、債務者が倒産手続に入っても消滅せず、優先弁済権が認められます。 4.1.5 債権譲渡 取引先に対して早期に回収を図れるような有効な方法がなく、ある程度の損を覚悟してでも早期処理してしまいたいときには、取引先に対する債権を、サービサー(債権回収会社)に譲渡するという方法もあります。譲渡価額はサービサーとの個別交渉によりますが、回収可能性によって価額が決められるのが通常であるので、譲渡する場合でも、スムーズな譲渡のために取引先の資産調査は一通り行っておいた方が良いと思われます。 4.2. 法的手続による回収方法 4.2.1 担保権実行 担保権を実行することは直截的で実効性のある回収方法です。担保権実行(不動産競売等)の申立により、物的担保であれば、少なくとも担保物の価値分は回収ができます。 但し、競売の場合には、時価よりもかなり低い金額での売却価額になりますので、担保を取るときには予め競売価格を見込んで与信することになります。 物的担保と異なり、人的担保(保証)のときには、保証人の資力がどれだけあるかに大きく左右されます。そのため、回収の確実性という意味では、一般的には物的担保に劣りますが、できるだけ保証人からの回収も図ることになります。 4.2.2 仮差押え 仮差押えとは、訴訟を提起する前に、債務者の資産を仮に差し押さえて、保全しておく法的手続です。 資産調査をした結果、執行対象とできそうな資産が見つかっても、訴訟をやっている間に債務者に処分されてしまったら回収ができません。 そのため、提訴前に、債務者の資産を保全しておくためにこの手続きを使います。但し、「仮」とはいえ、訴訟の結果が出る前の段階で差押えてしまうので、ある程度の担保金を積まなければなりません。担保金は、訴訟の結果、債務者が勝訴した場合、仮差押えによって債務者に生じた損害に充当されるためのお金になります。 私たち弁護士が、債権回収のご相談を受けたときに、常に念頭に置くのはこの仮差押えの申立可能性です。執行対象財産がある場合には、すぐに申立準備にとりかかることになります。 4.2.3 訴訟・支払督促等 訴訟や支払督促等の法的手続による回収もありますが、結局、執行対象財産がないならば、判決書も画餅にすぎません。 債務者に資産がなければ、訴訟等をしても、費用倒れになってしまいますから、やはり、事前の調査が大事です。 4.3. 債務者が倒産手続に入っても、何が権利行使できるか検討する 債務者が、破産、民事再生、会社更生などの法的倒産手続に入ることがあります。 そうなると、それぞれの手続きに従って進めざるを得ず、配当率は一般に低率ですから、回収はなかなかおぼつかないことになるでしょう。 但し、その場合でも、担保権は別除権(破産の場合)や更生担保権(会社更生の場合)として優先権が認められたり、相殺が可能な場合もあります(相殺禁止に該当するときもあるので注意)。 そのため、債務者が倒産手続きに入ったからといってすぐにあきらめることはせず、何が権利行使できるかは検討すべきでしょう。 以 上
|