1.解雇について |
|
(1) |
解雇とは
解雇とは使用者による労働契約の解約であり,使用者の一方的な意思表示によって行われます。
しかし,使用者による解雇権の行使は,従業員にとっては,生活の基盤である賃金を失うことにつながりますので,理由もなく従業員を解雇をすることはできません。客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められる場合でなければ,従業員を解雇することはできないのです(労働契約法16条,労働基準法18条の2)。
|
|
(2) |
解雇予告
使用者は従業員を解雇する場合は,少なくとも30日前にその予告をしなければならず,30日前に予告をしない場合は,30日分以上の平均賃金を支払わなくてはいけません。そして,この予告日数は平均賃金を1日分支払った日数だけ短縮することができます(労働基準法20条)。
なお,@日々雇い入れられる者,A2ヶ月以内の期間を定めて使用される者,B季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者,C試の使用期間中の者については解雇予告の適用はありません。但し,@については1ヶ月を超えて継続雇用した場合,A及びBについては所定の期間(2ヶ月または4ヶ月)を超えて継続雇用した場合,Cについては14日を超えて継続雇用した場合には,解雇予告が必要となりますので(労働基準法21条),注意が必要です。
また,@天災事変その他やむを得ない事由のために事業が不可能となった場合,A労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合にも解雇予告は不要です(労働基準法20条1項但書)。
|
|
(3) |
普通解雇と懲戒解雇
解雇は一般に「普通解雇」と「懲戒解雇」の2つに分けられます。懲戒解雇は,従業員が服務規律や企業秩序に違反した場合に,懲戒処分として行われる解雇であり,普通解雇は,懲戒処分としての性格を有しない解雇です。
懲戒解雇については,懲戒としてなされる点で,就業規則等において懲戒解雇の定めがなければ行うことはできませんし,その有効性の判断は,普通解雇の場合よりも厳しく行われますが,普通解雇も懲戒解雇も解雇という点では,何ら変わりはないため,前述の通り,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められる場合でなければ,これを行うことはできません。
なお,懲戒解雇の場合,懲戒解雇事由が,「労働者の責めに帰すべき事由」(労働基準法20条1項但書)に該当する場合が多いため,解雇予告が不要な場合があります。
|
2.勤務成績不良・能力不足の従業員の解雇 |
|
(1) |
解雇理由
使用者が,従業員の解雇を検討する場合としては,従業員が無断欠勤を続けた場合,犯罪を犯し,刑事処分を受けた場合,故意・過失により会社に多大な損害を与えた場合,セクシュアルハラスメントを行った場合,会社の業績悪化により人員削減の必要がある場合等,様々な場合が考えられますが,今回は,勤務成績不良,能力不足の従業員の解雇(普通解雇)についてご説明いたします。
|
|
(2) |
勤務成績不良・能力不足の従業員の解雇
@ |
勤務成績不良・能力不足は解雇理由となり得るか
「上司の指示に従わず,勤務成績が上がらない従業員を解雇したい」,「能力がなくミスを繰り返す従業員を解雇したい」等のご相談を企業からなされることがよくあります。
雇用契約において従業員は,使用者の指示に従って業務を行う義務を負っていますので,使用者の指示に従わなかったり,指示した業務を行う能力がなかったりした場合は,雇用契約の債務不履行になります。したがって,勤務成績不良や能力不足も,解雇の理由となり得ます。
しかし,日本の企業の多くは,長期雇用制度を採用し,職務内容を限定せずに従業員を採用して,その後,社内研修・社内教育を受けさせ,さらには,社内で様々な職務を経験させて,従業員のキャリアを向上させていくシステムをとっています。このようなシステムの中では,一時的に勤務成績が向上しないとか,職務遂行能力が劣っているということがあっても,それを理由に直ちに解雇すると,解雇権の濫用により解雇は無効とされる可能性が高いでしょう。
|
A |
どのような場合に勤務成績不良・能力不足を理由として解雇できるか
では,勤務成績不良・能力不足を理由として解雇ができる場合とは,一体,どのような場合なのでしょうか。この点,これまでの判例の動向からすると,@企業経営や運営に現に支障が生じあるいは損害が生ずるおそれがある場合など著しい能力不足があること,A使用者が教育・指導を行う等,雇用の維持に向けて努力をしたが,従業員に能力向上の見込みがないことがポイントになってきます。
@については,例えば,相対評価によって行われる人事考課の結果が平均以下であるというだけでは,「著しい能力不足がある」とは認められません。相対評価の場合,必ず平均以下の者が出てきますので,「平均以下の者」=「著しい能力不足がある」となれば,使用者は,毎年のように一定割合の従業員を解雇できることになってしまいます。このような結果は妥当とはいえません。
著しい能力不足があることを客観的に明らかにするためには,「職場ではどのような労働水準を要求しているのか」,「従業員の能力不足によって企業経営や運営にどのような支障があったのか」,「他の従業員と比較してどの程度能力が劣っているのか」等を書面により証拠化をしておくことが重要となります。
Aについては,まずは,勤務成績不良・能力不足の従業員に対して,勤務成績・能力の向上のため,研修・教育を行うことが必要となります。
なお,上司の業務命令に従わず,それ故,勤務成績が向上しない場合には,研修・教育だけでなく,従業員の業務命令違反に対して,注意・指導を行っていく必要があります。そして,再三にわたって,注意・指導をしても態度が改まらない場合,業務命令違反が懲戒事由として就業規則に規定されていれば,譴責等の軽い処分を行い,それでも改善しなければ,徐々に重い懲戒処分を行っていくことになります。
研修・教育・注意・指導の経過については,後日の紛争に備えて,書面により証拠化しておくことが重要です。
繰り返し研修や教育を行っても従業員の勤務成績・能力が向上しない場合には,別の部署に配置転換し,別の職務に従事させることを検討することも必要となります。いくつかの部署への配置転換を行い,別の職務に従事させた結果,いずれの部署においても適切な職務遂行を行えないとなった場合には,客観的にも職務遂行能力が不足していることが明らかとなり,解雇が認められ易くなります。
このように,研修・教育・注意・指導を行い,配置転換もして,会社として雇用の維持に手を尽くしたにもかかわらず,従業員の職務遂行能力が著しく不足し,能力の向上が見込めない場合には,解雇を検討せざるを得ないでしょう。
しかし,解雇されれば,従業員は生活の糧を失うばかりか,次の就職先を探すにあたって解雇されたことが障害になることもあり得ますので,従業員がすんなり解雇を受け入れるとは限りません。解雇の有効性を巡って従業員との間で紛争が生じる可能性も少なくはないでしょう。
そこで,まずは,退職勧奨を行い,自主的な退職を促してみるのがよいでしょう。退職勧奨をしても,従業員が応じない場合に,初めて解雇を行うのがよいのではないかと思います。
|
B |
判例紹介
最後に,従業員の能力不足を理由とする解雇が有効とされた事例を1つ紹介します。
当該事例では,従業員は,入社後,国際営業部に配属されましたが,営業担当者としての適正なしと判断され,4ヶ月で海外プロジェクト部に配置転換になりました。その後も,海外プロジェクト部,国際営業部,国際審査部に順次配置転換されましたが,従業員は,いずれの部署においても理解能力に欠け,適切な業務遂行を行うことができなかったばかりか,自己の能力を過信して思いつきで取引先と交渉したり,支離滅裂な発言をしたり,時間的制限のある業務を与えられても期限直前に休暇をとったり等したため,使用者は,当該従業員を実質的な業務から外さざるを得なくなりました。その後,当該従業員が国内法務の業務を希望したため,使用者は,3ヶ月間,当該従業員の日常業務を免除した上で,法務実務に関して,研修を兼ねた考査を行いましたが,その結果も不良であり,法務担当者としての能力・適正に欠けるばかりでなく,業務遂行に対する基本姿勢に問題があると評価されました。そこで,使用者は,当該従業員に対して,退職勧奨をしましたが,これを従業員が拒否したために解雇をしたという事案です。
当該事案について,裁判所は,上記の経過に鑑み,「債権者(従業員)をさらに他の部署に配置転換して業務に従事させることはもはやできない,との債務者(使用者)の判断もやむを得ないものと認められる」として解雇は有効であると判断しました(三井リース事業事件・東京地決平成6年11月10日)。 |
|
|
|
|
|