ア |
除外合意(法4条1項1号)
除外合意とは,生前贈与した自社株式について,その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことを合意することをいいます。
例えば,前述した,先代経営者が不動産(評価3000万円)及び自社株式(評価3000万円)を保有,法定相続人が子ども3人(後継者A,非後継者B,C),生前に不動産及び自社株式を全て同時に後継者Aに贈与した事例で考えます。
この事例で,自社株式全てについて除外合意をした場合,遺留分の計算は,自社株式を除いて,不動産のみを対象として計算しますので,単純に考えて,BCは,各500万円の遺留分の権利を持つことになります(不動産3000万円×各6分の1)。また,除外された自社株式は,遺留分減殺請求の対象にもなりませんので,自社株式の分散を防止することができます。
仮に,前述の事例のように,後継者Aが努力して,先代経営者が死亡した時点で,自社株式の価値が9000万円に上昇していた場合であっても,遺留分の計算は,不動産のみを対象として計算しますので,結論は変わりません。従って,後継者Aのインセンティブも充たされることになります。 |
イ |
固定合意(法4条1項2号)
固定合意とは,生前贈与した自社株式について,遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を合意のときにおける価額に固定する合意をすることをいいます。
例えば,前述の例で,自社株式全てについて3000万円の価額で固定合意をした場合,遺留分の計算は,相続開始時ではなく,合意時の固定した価額で算定しますので,仮に,後継者Aの努力により,先代経営者が死亡した時点で,自社株式の価値が9000万円に上昇していた場合であっても,自社株式の価額は3000万円として計算し,単純に考えて,BCは,各1000万円の遺留分の権利を持つことになります(合計6000万円×各6分の1)。従って,この場合も,後継者Aのインセンティブが充たされることになります。
注意しなければならないのは,後継者Aが努力しても,結果として,自社株式の価値が下がってしまった場合(例えば600万円),固定合意をしていなければ,BCの遺留分の権利は各600万円(合計3600万円×各6分の1)であったのに,固定合意の結果,BCの遺留分の権利が各1000万円となり,後継者Aにとって不利な結果が生じてしまいます。固定合意を選択する場合には,この点をリスクとして理解しておかなければなりません。 |
ウ |
非後継者への配慮
除外合意や固定合意は,非後継者からみれば,自己が保有する遺留分の権利を一部放棄するようなものですので,除外合意や固定合意をする場合には,非後継者への配慮が必要となります。
まず,後継者が合意の対象とした株式を処分した場合と,先代経営者が生存中に後継者が代表者を退任した場合について,非後継者である推定相続人がとることができる措置を必ず定めておかなければなりません(法4条3項)。例えば,合意を解除できるとしたり,違約金を定めることも考えられます。
次に,合意により推定相続人間の衡平を図るための措置を定めることができます(法6条1項)。例えば,後継者が非後継者に一定額の金銭を支払うことが考えられます。また,上記衡平を図るための措置として,後継者ではなく,非後継者である推定相続人が先代経営者から生前贈与等により取得した財産についても,除外合意の対象とすることができます(固定合意の対象にすることはできません。法6条2項)。
この推定相続人間の衡平を図るための措置は必ず定めなければならないものではありませんが,非後継者に除外合意や固定合意をさせるインセンティブとなりますので,よく話し合って決める必要があります。 |