1 セクハラとは |
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「セクハラ」という言葉は,「セクシュアル・ハラスメント」の略語として,「意に反する不快な性的言動等」といった意味で広く使われています。
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(1) |
職場におけるセクハラの分類
職場におけるセクハラについては,男女雇用機会均等法が,@「対価型」とA「環境型」に分類して定義をしています。
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@「対価型」
職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により労働者がその労働条件につき不利益を受けること。
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典型例
ア |
事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが,拒否されたため,労働者を解雇すること。 |
イ |
出張中の車中において上司が労働者の腰,胸等に触ったが,抵抗されたため,労働者について不利益な配置転換をすること。 |
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A「環境型」
性的な言動により労働者の就業環境が害されること。
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典型例
ア |
事務所内において上司が労働者の腰,胸等に度々触ったため,労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。 |
イ |
出張中の車中において上司が労働者の腰,胸等に触ったが,抵抗されたため,労働者について不利益な配置転換をすること。
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(2) |
性的な言動の具体例 |
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@ |
「性的な内容の発言」には,性的な事実関係について尋ねること,性的な内容の情報を意図的に流すこと,性的な冗談やからかい,食事やデート等へしつこく誘うこと,個人的な性的体験談を話すことなどが該当します。
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A |
「性的な行動」には,性的関係を強要すること,必要もないのに身体に触ること,わいせつな図画(ヌードポスター等)を配布することなどが当ります。 |
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(3) |
セクハラの範囲の広がり |
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セクハラというと,男性から女性に対するものとして,考えられていましたが,平成19年4月に改正された男女雇用機会均等法では,同性同士のセクハラ,男性に対するセクハラも対象になりました。
また,人事院規則では,@「男のくせに根性がない」「女には仕事を任せられない」などと発言することや,A「男の子,女の子」「僕,坊や,お嬢さん」「おじさん,おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすることなどもセクハラにあたる可能性があるとしています。
いずれにしても,相手方が不快に思う性的な言動は,セクハラに該当する可能性があります。本人は,職場のコミュニケーションのつもりであっても,相手が不快に感じている場合もあります。職場で会話をする際には,十分な心配りが必要です。
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(4) |
セクハラの対象となる「労働者」とは |
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セクハラの対象となる労働者とは,正社員のみならず,パートタイム労働者,アルバイト,契約社員,派遣社員など,事業主が雇用する労働者のすべてをいいます。
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(5) |
職場の範囲 |
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セクハラが問題とされる「職場」とは,労働者が,通常勤務している場所に限られず,「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所」が対象になります(厚生労働大臣のセクハラ指針)。
通常業務を行っている事務所,店舗,工場,倉庫等のほか,取引先の事務所,打合せや接待に使用する飲食店,顧客の自宅等であっても,その労働者が業務を行う 場所であれば,「職場」に含まれます。
例えば,接待等の店で,カラオケのデュエットを強要したり,酒席で,上司の傍に座席を指定したり,お酌を強要することなどもセクハラに当たります。
「職場」にあたるかどうか等が問題になった裁判例を紹介します(大阪地裁平成10年12月21日)。
女性社員らのための歓迎会としての飲み会が終了した後,上司である男性社員が,二次会のカラオケに行くよう強く誘い,やむなく参加した女性社員に対し,自分の隣に着席するよう命令し,突然,女性に抱きつこうとし,顔を覆った女性の左手甲にキスしたり,卑猥な発言を繰り返すなどしました。
大阪地方裁判所は,「性的いやがらせは,職務に関連させて上司たる地位を利用しておこなったもの,すなわち,事業の執行につき行われたものである」として,加害者である男性社員と事業主の双方に対し,賠償責任を認め,慰謝料として100万円の損害賠償を命じました。
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2 セクハラが起きた場合の法的責任 |
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セクハラが起きた場合,(1)セクハラ行為をした加害者,(2)使用者である事業主が法的責任を問われる可能性があります。
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(1) |
セクハラを行った加害者に対する責任
セクハラを行った加害者は,刑事責任,民事責任,職場の就業規則に基づく責任(懲戒処分)を追及されます。
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@ |
刑事責任
加害者の行ったセクハラの具体的な内容によって,刑法上の強制わいせつ罪(刑法176条),強姦罪(同法177条),名誉毀損罪(同法230条),侮辱罪(同法231条),また,軽犯罪法,迷惑防止条例等により,刑事責任を追及され,処罰されるおそれがあります。
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A |
民事責任
セクハラ行為により,被害者の権利,利益は侵害されていますので,被害者は,加害者に対して,不法行為に基づく損害賠償請求ができます(民法709条)。
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B |
就業規則に基づく懲戒処分
セクハラ行為が,就業規則に定めている懲戒処分事由に該当する場合,事業主から懲戒処分(戒告,減給,解雇など)が行われます。
この点に関連して,某製薬会社に勤務していた管理職の男性が,部下である複数の女性に対し,執拗にデートや食事に誘ったり,業務にかこつけた面談中に「6年もアプローチしているのに冷たい」などと交際を求めたり,男性の部下に対し「単身赴任で大変だから,夜だけ相手にしてくれる女を紹介したら,管理職にしてやる」などと発言したことについて,会社が,この管理職の男性に対して行った解雇処分を有効と判断した裁判例があります(東京地裁平成12年8月29日)。
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(2) |
事業主に対する責任
事業主には,従業員の不法行為等により発生した損害を賠償する責任がありますので(使用者責任),セクハラが業務遂行中になされた場合,セクハラをした従業員とともに,損害賠償を請求される場合があります。
また,職場においてセクハラ対策が講じられず,厚生労働大臣からの是正指導にも応じない場合,企業名公表の対象にもなります。
セクハラが発生したり,これを放置した場合,法的な責任だけでなく,企業イメージのダウンや社会的信用の失墜など有形・無形の損失が発生することも避けられません。
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3 セクハラの防止にむけて |
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男女雇用期間均等法では,事業主に対し,セクハラ防止のため,以下の措置を講じることを義務づけてい
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(1) |
事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
@ |
セクハラの内容,セクハラがあってはならない旨の方針を明確化し,周知・啓発すること
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A |
行為者について,厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し,周知・啓発すること
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(2) |
相談(苦情を含む)に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備
B |
相談窓口をあらかじめ定め,広く相談に対応すること
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(3) |
事後の迅速かつ適切な対応
C |
相談の申出があった場合,事実関係を迅速かつ正確に確認すること
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D |
事実確認ができた場合は,行為者及び被害者に対する措置をそれぞれ適切に行うこと
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E |
再発防止に向けた措置を講ずること
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(4) |
(1)〜(3)とあわせて講ずべき措置
F |
相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ,周知すること
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G |
相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益取扱いを行ってはならない旨を定め、周知すること |
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4 最後に |
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セクハラはいかなる理由があっても許されません。
性的言動に対する受け止め方には,個人間,男女間,世代間でおおきな差がありますので,何気ない言動にも十分注意が必要です。
また,セクハラを受けた側は,職場内でトラブルを起こしたくない,表面化させたくないという気持で,何も言えない場合もあります。
セクハラを防止するためには,事業主と従業員がセクハラについて正しく理解し,事業主が率先して,セクハラ防止策を講じ,快適な職場をつくることが重要です。
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