飲酒運転等の厳罰化
弁護士 上田 瑞尊   



 平成18年8月,福岡市内において飲酒運転の車による追突事故で3人の子供が亡くなったという痛ましい事件がまだ記憶に新しいところですが,飲酒運転に対する罰則強化を求める世論が強まる中,平成19年に入って,相次いで法改正がなされました。



 平成19年6月15日,道路交通法が改正され,運転者本人の罰則が引き上げられるとともに,「飲酒運転者の周辺者」に対する罰則が新たに加わりました(同年9月19日施行)。



 また,平成19年5月17日,自動車事故について,刑法に自動車運転過失致死傷罪が新設され(同6月12日に施行),平成13年11月に新設された危険運転致死傷罪とともに,飲酒運転あるいは飲酒により交通事故を起こした加害者に対する罰則が大幅に重くなっています。



1 飲酒運転者への罰則強化


 酒酔い運転と酒気帯び運転(※)の罰則がそれぞれ強化されました
 また,救護義務違反(ひき逃げ)の罰則が強化されました。この救護義務違反の罰則強化の背景には,飲酒運転者が事故を起したときに,刑罰の重い危険運転致死傷罪を適用されないよう現場から逃走する「ひき逃げ」が多発したことがあります。
 飲酒検査拒否については,厳罰化によって飲酒の検査を拒否する者の増加が懸念されたことから,新たに懲役刑が定められました。


※ 酒酔い アルコール濃度とは厳密な関係がなく,「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」にあることを指す。直立不動が可能か,歩行困難な状態ではないか,言語能力は正常かなどを調べた上で判断され,一般的には酒気帯びの基準値以上のアルコールが検出されるのが条件だが,数値的な基準はない。


  酒気帯び 呼気中アルコール濃度1リットルあたり0.15ミリグラム以上


道路交通法の飲酒運転者に対する罰則

 

     改正前

     改正後

酒酔い

3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

5年以下の懲役又は
100万円
以下の罰金

酒気帯び

1年以下の懲役又は30万円以下の罰金

3以下の懲役又は
50万円以下の罰金

飲酒検査拒否

30万円以下の罰金

3月以下の懲役又は
50万円以下の罰金

救護義務違反(ひき逃げ)

5年以下の懲役又は50万円以下の罰金

10以下の懲役又は
100万円以下の罰金




2 飲酒運転周辺者への罰則強化 


 今までの道路交通法には,飲酒運転をした運転者の周辺者を直接罰する規定がなく,運転者に酒類を提供する,飲酒をした者に車で送ってほしいと依頼するなどして飲酒運転を助長しても,刑法のほう助罪を適用する以外にありませんでした。


  しかし,今回の改正により,飲酒運転の周辺者を直接処罰できるようになりました。具体的には,飲酒運転をするおそれのあるものに対する車両,酒類の提供,酒気を帯びた運転者に対する自己の運送の要求など,飲酒運転のほう助行為とされていた行為のうち,特定の飲酒運転の助長行為を処罰の対象とし,車両の提供者には運転者と同様の罰則を,酒類を提供した者,運送を要求した者についても一定の罰則をそれぞれ科すことができるようになりました。



道路交通法の飲酒運転周辺者に対する罰則  

 

 改正前

     改正後

飲酒運転をするおそれのある者に対する「車両の提供」

運転者が酒酔い

※改正前の道路交通法に罰則はなく,刑法のほう助犯規定などを援用していた

5年以下の懲役又は
100万円以下の罰金

運転者が酒気帯び

3年以下の懲役又は
50万円以下の罰金

飲酒運転をするおそれのある者に対する「酒類の提供

運転者が酒酔い

3年以下の懲役又は
50万円以下の罰金

運転者が酒気帯び

2年以下の懲役又は
50万円以下の罰金

酒気を帯びた者が運転する車両への「同乗」(自己の運送を要求)

運転者が酒酔い

3年以下の懲役又は
50万円以下の罰金

運転者が酒気帯び

2年以下の懲役又は
50万円以下の罰金



3 自動車運転過失致死傷罪の新設
 



 最大のポイントは刑法の業務上過失致死罪から交通事故に関する罪を分離したこと,そして,刑の上限を引き上げたことです。


  自動車運転による死傷事故に対しては,平成13年の刑法改正で,危険運転致死傷罪が新設され,非常に重い刑罰が定められましたが,近時の自動車運転による死傷事故には,危険運転致死傷罪が適用されるほどではなくても,飲酒運転を含め悪質かつ危険な運転行為によるものや,多数の死傷者が出るものも発生しており,そのような死傷事故の加害者に対する処罰としては,5年以下の懲役・禁固という業務上過失致死傷罪の上限刑では低すぎるという意見が強まっていました。

 そこで,今回の刑法改正では,自動車事故について,自動車運転過失致死傷罪が新設され,これにより,従来は業務上過失致死傷罪として扱われていた事案に関して,実質的に懲役・禁固の刑期の上限が2年引き上げられたことになります。自動車運転過失致死傷罪の適用対象となる自動車には,二輪車も含まれます。


 なお,今回の刑法改正では,危険運転致死傷罪の適用対象となる自動車についても,従来は四輪以上のみだったところ,二輪車も適用対象に加えられました。


人身自動車事故の加害者処罰に関する刑法の規定


業務上過失致死傷罪        …従来は,人身自動車事故の加害者は同罪で処罰されていた


5年以下の懲役もしくは禁固又は
100万円以下の罰金



自動車運転過失致死傷罪    (平成19年に新設)


7年以下の懲役もしくは禁固又は
100万円以下の罰金



危険運転致傷罪          (平成13年に新設)


15年以下の懲役


危険運転致死罪           (平成13年に新設)


1年以上20年以下の懲役



4 最後に


 飲酒運転等に対する厳罰化が進む中,飲酒運転による交通事故の件数自体は減少傾向にあるようです。
 ただ,何よりも重要なのは,個々の運転者やその周辺にいる者が,使い古された標語ではありますが 「飲んだら乗るな!乗るなら飲むな!」ということを徹底する強い意志を持ち続けることでしょう。


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