「労働審判」のご紹介
弁護士 井澤 慎次   


 労働審判手続とは 

 (1)  労働審判手続とは,解雇の問題,残業代の不払い,セクハラ被害など労働関係のトラブルを解決するために, 平成18年4月1日から始まった新しい制度です。
 労働審判手続とは,解雇の問題,残業代の不払い,セクハラ被害など労働関係のトラブルを解決するために, 平成18年4月1日から始まった新しい制度です。


 労働審判の特色

 (1)  労働審判手続の特色としては,主に以下払あります。

@手続の迅速性

    ・3回以内の期日で解決

 労働審判手続きは3回以内の期日で双方の言い分を聞き,争点を整理して,証拠調べも行います。その間に,調停もしくは審判を行って手続を終了させます。
 通常の民事訴訟では,解決するまで1年以上かかることも希ではありませんが,労働審判手続は,概ね2〜4カ月間で解決に至ります。
 平成18年4月から同年12月末までの全国の裁判所の統計によれば,労働審判申立事件の約8割が調停と審判(異議申立てなし)で解決し,また,労働審判既済事件606件の平均審理期間は72.9日となっており,迅速な紛争処理が図られています。
 当事務所で私が担当した事件は,1カ月の間に3回の期日が入り,とてもスピーディーに紛争を解決することができました。


・準備が大切

 3回以内の期日という制約がありますので,冒頭から充実した争点の整理が行われます。書面のやりとりにも制約があり,当事者は口頭で,言いたいことを言い尽くすことが必要になります。
 また,第1回目の期日から証拠調手続きに入り,審判委員会から質問がなされます。いかなる質問がされても即座にきちんと答えられるように,期日に向けた準備を十分行っておく必要があります。
 当事務所で受任する事件では,審理の最中,いつ,いかなる質問がなされても対応できるよう,事前に依頼者のご担当の方々と何度も打合せを行い,想定質問事項を作成し,テストを繰り返し,本番の期日に臨みます。  

A労働関係の専門的実務経験者が関与する専門性

    ・労働審判員とは…

 労働審判手続は,裁判官である労働審判官1名と民間から任命される労働審判員2名で構成される「労働審判委員会」が運営します。
 労働審判員は,労働者または使用者の立場で実際の労働紛争の処理等に携わった経験等があり,労働紛争の実情や制度等の知識を身につけた方です。例えば,労働組合の役員や企業の人事担当者などです。現在全国で,使用者側(経団連等)が推薦した500名,労働者側(連合,全労連等)が推薦した500名,合計1000名の審判員がいます。労働審判員は数日間にわたる研修を受けた後,最高裁判所から任命されます(原則68歳未満,任期2年)。
 労働問題の現場をよく知るスペシャリストを関与させることで,紛争の実情に即した適正な解決を図ることが可能になります。 

 ・労働審判員は中立・公正


 労働審判員は,労働者または使用者いずれかの立場から関与するのではなく,あくまでも中立公正な立場で手続に関与します。労働者(使用者)側からの推薦に基づき任命されたからといって,労働者(使用者)の肩入れをすることは許されません。
 審理の法廷では,ラウンドテーブルという楕円形のテーブルに労働審判委員会と当事者(申立人・相手方)が着席し,労働審判委員会3名は,中央に労働審判官,その両サイドに労働審判員がそれぞれ着席しますが,当事務所で私が担当した事件では,どちらの審判員が,使用者側推薦の方か労働者推薦の方か分かりませんでした。
B実情に即した柔軟な解決

     通常の訴訟手続の場合は,事実を立証出来るか否かにより,勝訴か敗訴,黒か白かの判断がなされますが,労働審判手続は,「当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決」が可能です。
 たとえば,企業の行った解雇処分が無効であったとしても,労働者側が「現場復職ではなく,解決金を支払ってもらって解決を図ってもよい」という意向を示した場合では,「○○円の金員の支払と引き換えに,労働契約関係が終了することを確認する」といった審判を下して,紛争を解決することも可能とされています。


労働審判手続の大枠のイメージは掴めたでしょうか。
 労働審判制度は,スタートして1年しか経過していませんが,労働紛争を迅速かつ適正に解決する制度として,高く評価されています。

 当事務所としても今後、この新制度のいっそうの活用に取り組んでいきたいと考えています。


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